Tell My World 【ヒロアカ 爆豪勝己】
第1章 ようこそ『ZERO WORLD』へ
『生体情報スキャン……
指紋、網膜、心拍、脳波……照合完了。
個性因子――検知。
規約に基づき、個別の能力コードを全遮断。
ミラージュとリンクします』
「……あ?」
一瞬、全身の力が抜けるような妙な喪失感があった。
手のひらに常に宿っていた、あの爆破の熱な指先のピリつき。
それが情報の波に飲み込まれて、綺麗に消えていく。
『シンクロ率 100%
貴方の魂をアバターへ転送しました。
それでは、【ZERO WORLD】をお楽しみ下さい』
「おい、待て……っ!」
叫ぼうとした口は、もはや現実の肉体のものではなかった。
視界が弾けるように開き、爆豪は夜の街へと降り立つ。
次に視界に入ったのは、この世とは思えない美しさだった。
「……ッ、チッ。視界がグラつきやがる」
爆豪が夜の街「エターナル・ナイト」の広場に降り立つと、そこには既に「ピカキチ」とかいうふざけた名前を頭上に浮かべた上鳴が、ヘラヘラと手を振って待っていた。
「おーい、お前爆豪だよな?こっちこっち! 名前はBLASTか! かっこいい名前にしたな!」
「うるせぇ。……おい、マジでこれ、火花すら出ねぇぞ。どうなってんだ」
爆豪は苛立ちをぶつけるように右手を何度も握りしめるが、掌からは硝煙の匂いすら漂ってこない。
ただの、無力な「手」だ。
「だから言ったろ? ここは全員『無個性』なんだって。……お、そろそろ始まるぜ! ほら、前行こうぜ、前!」
「おい、押すんじゃねぇ……っ」
不機嫌極まりない爆豪をよそに、広場の空気が一変した。
街を彩るネオンが一斉に消え、代わりにステージの中央から、天空まで届くような一筋の青白い光が立ち上がる。
直後、心臓を直接掴まれるような重低音が響き渡り、空に無数の光の花びらが舞った。
「――ようこそ、私のライブへ」
光の中から現れたのは、長い髪をなびかせた歌姫――エミリア。
「…………っ」
爆豪は、文句を言おうとして開けた口を、そのまま閉じるのを忘れていた。
彼女が一声発した瞬間、広場の騒がしさが凪のように静まり返る。
個性が使えないこの世界で、ただの「声」が、爆豪の全身に鳥肌を立たせた。