Tell My World 【ヒロアカ 爆豪勝己】
第2章 初恋は、0と1の境界線上で
数週間ぶりに訪れた入り江は、驚くほど静かだった。
寄せては返す波の音だけが響く中、小さく蹲る人影を見つける。
(……っ、いた……)
爆豪の胸が、鋭い痛みを伴って跳ねた。
膝を抱え丸くなっているその背中は、今にも夜の闇に溶けて消えてしまいそうなほど頼りなかった。
「…………おい」
喉の奥に張り付いた声を、どうにか絞り出す。
その声に、エミリアの肩がびくりと跳ねた。
彼女は、恐る恐る、信じられないものを見るようにゆっくりと顔を上げる。
振り返ったその顔は、今にも泣き出しそうなほどに歪んでいた。
花火の夜、あんなにキラキラと輝いていた瞳は潤み、絶望と微かな希望が入り混じった表情で爆豪を見つめている。
「……っ、BLAST……?」
今にも泣き出しそうな声が、爆豪の胸をナイフのように切り裂いた。
自分が逃げ出していた間、彼女をどれほどの孤独の中に置き去りにしていたのか。
やらかした自覚があるからこそ、爆豪はあと一歩が踏み込めず、その場に釘付けになったように立ち尽くす。
「BLAST……ッ!!」
溢れ出した涙を拭うこともせず、彼女は立ち上がると、縋るような足取りで駆け寄ってきた。
そして、爆豪の胸に勢いよく飛び込み必死に縋り付いた。
「……っ、う、…………っ!」
「お、おい……テメェ……っ」
「ずっと、一人で……っ。ずっと、寂しかった……! もう二度と、会えないかと思って……っ」
しゃくり上げる声が、胸元で震える。
彼女の細い指先が、爆豪の服を離してなるものかと強く、強く掴んでいた。
これまで何万人もの前で完璧に歌い、孤独すらも美しさに変えてきた歌姫が、今はただの、迷子の子供のように泣きじゃくっている。
(……クソッ!……俺は何を、してんだ)
戸惑い一瞬たじろいだ爆豪だったが、彼女の震えが掌から伝わってくるたび、胸の奥の愛おしさが爆発しそうになる。
「…………悪かった」
掠れた声で、それだけを呟いた。
爆豪は逃げ場を失ったように、けれど守るように、その細い体を力一杯抱きしめ返した。
二人の境界線が、波音に溶けていく。
切ないほどの静寂の中で、爆豪はただ、二度とこの温もりを離さないと誓うように、彼女の背中に手を回したーー。