Tell My World 【ヒロアカ 爆豪勝己】
第2章 初恋は、0と1の境界線上で
「バーチャルな世界だって、わかってはいるんですけど……。それでも、今日が来るのをずっと、ずっと楽しみにしていました。……BLAST、私を一人にしなでいてくれて、ありがとうございます」
少しだけ震える声。
それは、何万人もの前で堂々と歌い上げる『歌姫』の姿からは想像もつかないほど等身大で、脆い一人の少女の言葉だった。
「……テメェ、そんな大層なもんじゃねぇだろ。ただの花火だろうが」
爆豪は照れ隠しにぶっきらぼうに返したが、内心では激しく動揺していた。
世界中から愛されているはずの彼女が、こんな当たり前の幸せを「初めて」だと言ったことが、彼の胸を強く締め付けた。
「そう、ですよね。でも、私にとっては――」
彼女が言いかけたその時、ドンッ!と腹の底に響くような重低音が夜空を震わせた。
一拍置いて、真っ暗な天空に鮮やかな大輪の華が咲き誇る。
「わあ……っ!」
エミリアの瞳が、パッ!と輝いた。
次々に打ち上がる光の色が、彼女の白い頬を染め変えていく。
彼女は先ほどまでの神妙な面持ちをどこかへ脱ぎ捨て、まるで初めて世界を見た子供のように、キラキラとした瞳で夜空を仰いでいた。
爆豪は花火を見ていなかった。
すぐ隣で口を少し開けて夢中になっている彼女の横顔から、目を逸らすことができない。
(……なんだよ、これ)
ーー初めて入り江で会った時の、どこか影のある寂しげな背中。
ーー天空の城で世界を圧倒した、直視できないほど神々しい歌姫の姿。
ーーそして今、隣で子供のように目を輝かせている姿。
そのすべてが重なり、爆豪の脳内を、花火以上の衝撃でかき乱していく。
(……クソ。……どいつもこいつも、あいつなんだろうが)
どの彼女も本物で、どの彼女も目を離せないほどに眩しい。
不器用で、まっすぐで、孤独を抱えて生きてきた彼女が今、自分の隣で心から笑っている。
その「特別」な事実が、爆豪の強固なプライドを容易く溶かしていった。
「……BLAST! 見てください、今の! ハートの形に見えませんでしたか!?」
興奮した様子で振り返る彼女と、視線が真っ向からぶつかる。
光り輝く瞳に、呆然とした自分のマヌケな顔が映っているのが分かった。