Tell My World 【ヒロアカ 爆豪勝己】
第2章 初恋は、0と1の境界線上で
花火大会当日の『ツクヨミ・レルム』は夜空を彩る大輪を待ち侘びる人々で、いつにも増して賑わっていた。
待ち合わせ場所の大きな鳥居の下でエミリアは、淡い藍色に撫子があしらわれた浴衣に身を包んでいた。
変装用の眼鏡と少し控えめな髪飾りで「地味」にまとめたつもりだったが隠しきれない気品が、かえって周囲の目を引いていた。
「……遅いな、BLAST。場所、間違えてないよね?」
そわそわと周囲を見渡していると、不意に背後から声をかけられた。
「ねぇ、お姉さん一人? この後の特等席、余ってるんだけど一緒にどう?」
「あ、いえ……あの、待ち合わせをしているので」
慣れないナンパに戸惑い、エミリアは一歩後ずさる。
普段、中枢の聖域や静かな入り江にしかいない彼女にとって、こうした強引な距離感は未知の恐怖だった。
「いいじゃん、そいつ来ないかもしれないし。俺らと行った方が楽しいって!」
「……っ、困ります。離して……」
男たちが彼女の細い腕に手を伸ばそうとした、その時。
「――おい。耳ついてねぇのか、テメェら」
鼓膜を震わせるような低い声に男たちが弾かれたように振り向くと、そこには濃紺の浴衣を無造作に着崩し、鋭い眼光を放つBLASTが立っていた。
「あぁ!? なんだテメェ……」
「二度言わせんじゃねぇ。こいつは俺の連れだ。……消えろ」
爆豪が放つ、プロヒーロー特有の凄まじい威圧感。
男たちは「ヒッ……!」と短い悲鳴を上げて、蜘蛛の子を散らすように人混みへ逃げ去った。
「……BLAST!」
「……ったく。テメェは無警戒すぎんだよ。……怪我はねぇか」
「はい。……助けてくれて、ありがとうございます。……あ、あの、その浴衣……すごく似合ってます」
まじまじと彼を見上げるエミリアに、BLASTは「……チッ、うるせぇ」と顔を背けた。
彼もまた普段とは違う彼女の浴衣姿に、内心では爆発寸前の動揺を抱えていたのだ。
「……行くぞ。人が増えてきやがった」
「あ、待って……っ」