Tell My World 【ヒロアカ 爆豪勝己】
第2章 初恋は、0と1の境界線上で
「――おい、爆豪!どこ行ってやがったんだよ!」
会場に戻るなり上鳴と緑谷が詰め寄ってきた。
「あの美人とダンスしたっきり戻ってこねぇし! 結局あのアバター、誰だったんだよ!」
「るっせぇ、 ただの知り合いと少し話してただけだわ」
爆豪は不機嫌そうに鼻を鳴らし、テーブルに残っていたグラスを煽った。
質問を適当に受け流しながら、ふと、懐の中にある「銀色の羽」のデータチップを思い出す。
「……あー、そういや。この招待パス、あいつからもらったんだわ」
「「…………は?」」
二人の動きが、ピタリと止まった。
「――それを先に言えよ!」
上鳴の絶叫が華やかな広間に響き渡った。
「かっちゃん! そんな大事なこと、なんで今まで黙ってたの!? 伝手があるどころの話じゃないじゃないか! 」
「うっせぇ! 伝手は伝手だろーが! 騒ぐんじゃねぇよ!」
爆豪は顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。
「あのアバターがエミリア本人だ」とは口が裂けても言えない。
ただの『知り合いの伝手』という体裁を守り通さなければ、彼女の穏やかな日常が壊れてしまう。
「関係者って……さっきの美人のこと!? 彼女、運営の偉い人だったりするわけ!? だからあんな堂々と踊ってたの!?」
「あぁ!? ……まぁ、そんな感じだ… あいつが『人数制限ねぇから呼べ』って言ったんだよ。文句あんのか!」
「文句なんてあるわけないでしょ! かっちゃん、その人にもっとお礼言っておいてよ! 僕ら、一生の思い出になったって!」
緑谷が感激に震えながら頭を下げてくる。
上鳴も「お前のコネ、マジで神だわ……」と拝む始末だ。
「……フン。気が向いたら伝えといてやるわ」
爆豪不機嫌そうに鼻を鳴らし、残りのカクテルを飲み干した。
自分だけが知る、彼女の本当の正体。
ライブで世界を魅了した『女神』が、実は地味なアバターで水面を眺めるのが好きな、少し寂しがり屋な女あるということ。
(……バラすわけねぇだろ。あいつが、あいつでいられる場所なんだからな)
心中でそう呟いた爆豪の口角が、ほんの少しだけ、誰にも気づかれないほど微かに上がった。
明日になればまたいつもの入り江で、何者でもない二人として、静かな波紋を数える時間が始まるのだーー。