Tell My World 【ヒロアカ 爆豪勝己】
第1章 ようこそ『ZERO WORLD』へ
『ZERO WORLD』
そこは、物理的な制約から解き放たれた、魂の移住先だ。
意識の海を深く潜った先に広がるその光景は、どこか懐かしく、そして息を呑むほどに幻想的だった。
ここは、人類がかつて空想し、物語の中に閉じ込めてきた「美しさ」を具現化したような、多層的な夢の世界。
一歩エリアを跨げば、世界はその表情を劇的に変える。
ある場所には、石畳を照らす行燈の火が揺れ、夕闇と光に包まれた和風の街並み。
またある場所には、浮遊する島々と美しい巨塔がそびえ立つ、王道RPGの世界を彷彿とさせるファンタジックな王都。
さらに深く潜れば、巨木が空を覆い発光する花々が道を示すエルフの森や、透き通った深い深い海の中の街もある。
そして、私が一番好んでいるのは、「常夜の街(エターナル・ナイト)」だ。
そこは太陽の昇らない、永遠の夜が支配する場所。
ネオンと魔法の光が街を彩り、ライトアップされた噴水が宝石を撒き散らす。
ひと昔前の名作ゲームの背景に迷い込んだような、完璧に計算された「虚構の美」が、そこにはあった。
この広大な世界で私たちが纏うのは、現実の肉体ではない。
ログインの際、指紋や網膜、そして個性因子を除いたあらゆる生体情報が解析され、魂の形を模して再構築されたアバター――『ミラージュ』
『ZERO WORLD』において、現実を支配する「個性」という最強の武器は、ただのプログラムのバグとして処理され消去される。
ここでは誰もが「無個性」であり、同時に何にでもなれる可能性を秘めた「0(ゼロ)」の存在だ。
だが、この美しい幻想世界は、決して現実から逃避するための甘い夢だけではない。
この世界を飛び交う通貨は、現実のデジタルマネーとリンクしており、ここで手に入れた富は現実の銀行口座を潤し、私が住む防音壁に囲まれたマンションの維持費へと変換されている。
「……本物よりも本物らしい、残酷な楽園」
私は常夜の街のバルコニーに立ち、眼下に広がる光の海を見つめる。
ここは、魂の価値がダイレクトに「数字」へと変わる場所。
個性に守られず、ただの『ミラージュ』として存在する私たちが、本当の意味で自分自身を響かせることができる、唯一の場所だったーー。