Tell My World 【ヒロアカ 爆豪勝己】
第1章 ようこそ『ZERO WORLD』へ
常夜の街『エターナル・ナイト』の広場に設置された特設ステージ。
そこには空を埋め尽くす程のアバターたちの群れが、今か今かとその時を待っている。
やがて、重低音が響き渡り、ステージの中央に一筋の真っ白な光が降りた。
「――みんなお待たせ。それじゃ、ライブを始めようか」
凛とした声とともに、『ZERO WORLD』の歌姫である『エミリア』が姿を現す。
現実のエミリアを知る者は誰もいない。
ここにいるのは、生体スキャンが弾き出したの「魂の写し鏡」の姿。
腰まで届く長い髪が仮想世界の風に吹かれて幻想的な弧を描く。
エミリアが一歩踏み出し、指先を天に掲げると、何万という仮想の光り輝く蝶たちが指先から溢れ出し、夜空を埋め尽くした。
彼女の喉から溢れるのは、現実では決して口にできなかった、濁りのないどこか切実な旋律。
エミリアが舞い踊るたびに、ステージからは音階に合わせ光が噴き上がり、観客たちの意識を『ZERO WORLD』の深淵へと誘っていく。
この世界では「個性」は無力だ。
だからこそ、人々はエミリアの歌に純粋な「生命の拍動」を感じ取って熱狂する。
エミリアのライブには入場料がない。
この美しい世界を愛する者なら、誰でも等しく彼女の歌を聴く権利がある。
それが、かつて「無個性」という理由だけであらゆる場所から排除された、のささやかなこだわりだった。
歌い終え、最後の余韻が夜の街に溶けていく。
一瞬の静寂の後、爆発的な歓声が世界を揺らした。
『エミリア!最高だ!』
『魂が震えた……っ!』
視界を埋め尽くすのは、システムを通して贈られる無数の「投げ銭」の通知と、仮想通貨が舞い踊るエフェクト。
そして、瞬時に完売していく限定グッズの売上データ。
エミリアの歌に価値を感じた者たちが投じるその対価は、現実の彼女の口座へと還元されていく。