Tell My World 【ヒロアカ 爆豪勝己】
第1章 ようこそ『ZERO WORLD』へ
静寂に包まれた広すぎる空間。
高級マンションの最上階の防音壁に守られたこの家が、今の私の世界のすべてだった。
カーテンの隙間から漏れる街の明かりは、プロヒーローたちが守る「輝かしい社会」の象徴で、私には眩しすぎる。
中学の頃、周りから「無個性」だと切り捨てられ、踏みにじられたあの日から、私の時間は止まったままだーー。
「……あ。また、彼がニュースに出てる」
テレビの画面越しに、爆破の光を背負って戦う爆豪くんを見る。
かつての同級生は、今や誰もが知るトップヒーローだ。
彼が強くなればなるほど、私は自分の存在が消えていくような感覚に陥る。
現実の私はただの透明人間。
何者でもない、何も持たない、空気のような存在だ。
だから、私はこのデバイスを手に取る。
「システム……ゼロ。ダイブ開始」
側頭部のフレームが淡く光り、意識が急速に吸い込まれていく。
重たい肉体が溶け、肺に詰まっていた濁った空気が消える。
視界が真っ白に染まる、完全な「無(ZERO)」の瞬間。
ここは個性因子を読み取らない、魂だけの聖域。
『おかえりなさい、エミリア。――ZERO WORLDへ』
システムの声に導かれ、私の体が再構築されていく。
生体認証(ミラージュ)が映し出したのは、現実の私とは似ても似つかない、光り輝くドレスを纏い世界を魅了する美しい歌姫エミリアの姿。
(……ここでの私は『無個性』じゃない)
一歩踏み出すと、足元から音の波紋が広がった。
現実では声さえ出すのが怖かったのに、ここなら、胸の奥で燻っているこの心の叫びをすべて歌に乗せられる。
「……さあ、歌おう」
数万人、数百万人のアバターがひしめき、熱狂を待つデジタル宇宙の海へ、私は飛び込んでいく。
この『ZERO WORLD』だけが、私が唯一の居場所だった。
この世界に、かつて私を虐めた一人である、あの爆豪くんが迷い込んでくるなんて……
この時の私はまだ、知る由もなかったーー。