Tell My World 【ヒロアカ 爆豪勝己】
第2章 初恋は、0と1の境界線上で
「……ここで何してやがる」
爆豪の問いかけに、彼女は視線を揺らめく水面へと戻した。
「……別に、特には。……何もしていません」
消え入りそうな声。
けれど、その響きには不思議な透明感があった。
「ここは……とても静かで、人が寄ってこないから。こうしてぼーっと、光が揺れるのを見て過ごすのが、好きなんです」
彼女が自嘲気味に、深いフードの影に顔を伏せる。
「こんな地味な私、見る価値なんてないのに」とでも言いたげな態度。
だが、皮肉なことに漣の光がまるでスポットライトのようにその輪郭を鮮やかに縁取っていた。
変装用のアバターだと言いながらその美しさは隠しきれていない。
飾り立てていない分彼女の持つ根源的な煌めきが、残酷なほど露わになっていた。
「…………」
無言で見つめる爆豪に彼女は気恥ずかしそうに視線を外して、逆に問いかけた。
「……あなたは? ここ、観光ルートからも外れているのに」
「……たまたまだ。変な路地に迷い込んだだけだわ」
「ふふ、本当ですか?」
彼女が少しだけいたずらっぽく目を細めた。
「本当は……あなたも、私と同じなんじゃないですか?」
「………チッ、仕事で少し、疲れただけだ。……息抜きだよ、息抜き」
ぶっきらぼうに吐き捨て隣にどさりと腰を下ろすBLAST。
その横顔を見て、彼女は満足そうに小さく頷いた。
「……なら、ここはいいところですよ。とても静かで、誰にも見つからない」
「……そうかよ」
「はい。……少しだけ、楽になれます」
彼女が再び水面を見つめる。
宝石の都の冷たい光が、二人の間に静かに満ちていく。
現実では決して交わることのない二人が、偽物の海の底で本当の自分を少しずつ取り戻していく。
「……おい」
「……なんですか?」
「……悪くねぇな。……ここ」
その言葉に彼女は今日初めて、ステージの上では一度も見せなかったような、穏やかな笑みを浮かべた。