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Tell My World 【ヒロアカ 爆豪勝己】

第2章 初恋は、0と1の境界線上で


「……俺に気づいてたのかよ。……てめぇはステージに立つたった1人だが、こちとら数多いる観客の1人だぞ」


爆豪が低く震えるような声で言う。
その言葉に彼女はさらに息を呑んだ。



「……っ。私がエミリアだって、気づいて……いたんですか? でも、今は……」


彼女は自分の地味な衣装を見下ろした。
徹底的に存在感を消し、気配を殺したはずの変装用アバター。
ライブの時の華やかさなど微塵もない今の自分を、なぜこの男は見破ったのか。


「……姿(データ)なんか関係ねぇだろ。てめぇの纏ってる空気は、あっちにいる時と同じだ。……隠しきれてねぇんだよ、その、消えちまいそうな孤独が」


「…………」


彼女の唇が微かに震えた。
現実でも仮想世界でも、誰も「自分」を見てはくれなかった。
誰もがエミリアという偶像に熱狂し、その奥にいる空っぽの自分には気づかない。

なのに、この男は。
初めて会ったはずのこの『BLAST』だけは、薄暗い深海の底で一人震えている本当の自分を、一瞬で見つけ出してしまった。


「……どうして、わかったんですか。今まで、誰も、気づかなかったのに」

「知るかよ。……俺の目は、偽物を見逃すほど節穴じゃねぇ。……エミリア」


その名前を呼ばれた瞬間、彼女の目から一筋の雫が零れ、水面へと溶けた。


「……ここでは、その名前で呼ばないで。……今の私は、ただの……何も持たない、幽霊みたいなものだから」


「……幽霊だぁ? んな綺麗なもんじゃねぇだろ。……現実(こっち)でもあっちでも、息が詰まって死にそうになってる……ただの人間だろ、てめぇは」


BLASTのぶっきらぼうな、けれど剥き出しの言葉が、彼女の閉ざしていた心に深く突き刺さる。
彼女は力なく笑った。
悲しいほどに、愛おしそうに。


「……ふふ。……あなたって、本当に……。……残酷で、優しい人なんですね」


蒼い水底に、二人の吐息だけが重なる。
名前も、個性も、現実の姿も何も知らない。


けれど、今この瞬間、二人の魂はどんな現実よりも深く、確かに触れ合っていたーー。




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