Tell My World 【ヒロアカ 爆豪勝己】
第1章 ようこそ『ZERO WORLD』へ
広場へ近づくにつれ空気が震え始めた。
それは単なる音圧ではなく、冷たい火花が肌を走るような、魂の輪郭をなぞられるような奇妙な感覚。
「……静かにしろ。始まるぞ」
爆豪が立ち止まった瞬間、街中の明かりがふっと消えた。
ーー静寂。
次の瞬間、闇を切り裂くようにして、ステージにプラチナブロンドの髪をなびかせた歌姫――エミリアが舞い降りる。
彼女が声を放った瞬間、緑谷の肩がびくりと跳ねた。
「っ……!」
個性のないこの世界で、その「歌声」だけが唯一の暴力的なまでの輝きを持って、聴く者の胸の奥を抉っていく。
現実の誰とも違う、けれどどこか懐かしく、ひどく孤独で、それでいて強い旋律。
「なんだろう……この歌。悲しいのに、すごく……温かくて……懐かしい……」
緑谷の大きな瞳からぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。
ただの「緑谷出久」という一人の人間が、むき出しにされていく。
「…………」
隣で爆豪は、ステージ上の彼女を黙って見つめていた。
緑谷が泣いていることにも気づかないほど、その視線は熱く、真っ直ぐに彼女の姿を捉えている。
現実の自分を縛るすべての鎖を解き放ち、この虚構の世界でしか呼吸できない自分を、彼女の歌だけが肯定してくれる。
「……見たか、verde。これが、この世界の『本物』だ」
ライブが終わり、光の粒子となって消えゆくエミリアの余韻の中で、爆豪が低く呟いた。
「うん……。BLAST、僕……わかった気がするよ。君がどうして、この世界に、彼女のところに……通い詰めるのか」
緑谷は涙を拭いながら、ステージだった場所を呆然と見つめ続けた。
この美しすぎる世界で、彼女の歌声が現実の何より『魂』に響くから……。