Tell My World 【ヒロアカ 爆豪勝己】
第1章 ようこそ『ZERO WORLD』へ
ヴィラン連合との死闘が終わり、瓦礫の山だった街にようやく復興の槌音が響き始めた頃。
人々の心がまだ癒えぬ傷痕に疼いていたその時期に、ひっそりと、だが確実にその「扉」は開かれた。
ーー仮想現実世界『ZERO WORLD』ーー
初期ユーザーとしてその地を踏んだ私は、現実の冷たいコンクリートの匂いを脱ぎ捨て、デバイスの向こう側に広がる光景に、ただ立ち尽くした。
最初は、今ほど完成された世界ではなかった。
ユーザー数も少なくどこか閑散とした、未完成の箱庭。
それでも、そこには私が喉から手が出るほど欲していた「救い」があった。
「……個性が、ない世界……」
隣を歩く誰かも、私を「無個性」と指差して蔑むことはない。
そこは、個性の有無で人生のランクが決まる「超人社会」のルールを真っ向から否定した、美しすぎるアサイラム(避難所)だった。
風の愛撫、水の冷たさ、そして、現実の通貨とリンクするシビアな経済体系。
「ままごと」ではない、もう一つの現実としての手触りが、傷ついた人々の口コミを伝って急速に広まっていった。
「ねぇ、聞いた? あっちの世界じゃ、ただの一般人が歌一本で、トップヒーローの月収を超えたらしいよ!」
「個性なんて関係ないんだって!!魂の形が良ければ、何か才能があれば、それでいい世界なんだ!」
そんな噂が街を駆け巡る。
ヒーローに守られるだけの弱者であることに疲れた者、力を持ちすぎて居場所を失った者。
そして私のように、最初から「0」として打ち捨てられた者。
溢れ出した孤独な魂たちは、吸い込まれるようにデバイスを装着し、幻想の空へとダイブしていった。
私もまた、その潮流の中で誰にも言えなかった感情を旋律(メロディ)に変えた。
現実ではゴミや空気同然に扱われた私の「声」が、この世界では歌となって降り注ぎ、人々の心を震わせる。
かつて私を「無個性」と蔑んだ者たちが血を流して秩序を再建している間に。
私を置いて「持っている側」へ行った緑谷くんが、正義のために身を削っている間に。
私はこの不自由で自由な虚構の海で、自分だけの王国を築き始めていた。
一曲歌うたびに、現実の通帳に刻まれる無機質な数字が、私をこの世界に繋ぎ止める唯一の鎖だったーー。