Tell My World 【ヒロアカ 爆豪勝己】
第1章 ようこそ『ZERO WORLD』へ
10年前の折寺中学校の放課後の教室。
西日に照らされた私の机には、誰が書いたのかもわからない「無個性は死ね」という殴り書きがあった。
「――よぉ、無個性。いつまでそこに居座ってんだよ」
爆豪くんの低く威圧的な声。
彼の手から放たれる爆破の熱気が、私の頬をかすめる。
彼にとって私は、視界に入るだけで不快な「石ころ」以下の存在だった。
そんな地獄のような日々を耐えられたのは、同じ「石ころ」として隣にいてくれる緑谷くんがいたから。
放課後の誰もいなくなった校舎の裏で私は、ボロボロになったノートの泥を払っている緑谷くんの隣に座る。
「……また、やられちゃったね」
緑谷くんが無理に作った笑顔は痛々しく歪んでいた。
彼の努力の結晶であるヒーロー分析ノートは爆破され、焦げて無残な姿になっている。
「……ねぇ、緑谷くん。私たち、なんで無個性で生まれてきちゃったんだろうね。個性がなきゃ、息を吸ってるだけで怒られるのに」
「……そうだね。でも、ちゃん、僕たちはまだ……諦めなくていいはずだよ。いつか、何かが変わるかもしれない。僕たちみたいな無個性でも、誰かの役に立てる方法が、きっと……」
「……ないよ、そんなの」
私は彼の言葉を遮った。
泥だらけの彼の手を自分の冷たい手で重ねる。
それは励ましなんて綺麗なものじゃない。
自分より惨めな存在を確認して、安心したいだけの「傷の舐め合い」だった。
「緑谷くんだけだよ。私と一緒にいてくれるのは。……私たち、ずっと一緒だよね? 爆豪くんたちみたいに、誰かを傷つける力なんて持たずに……ずっと、二人でいようね」
「……ちゃん」
「約束だよ。私を、一人にしないで」
彼の瞳に宿る、微かな「希望」という名の光が怖かった。
暗い海の底で、重りをつけて二人で沈んでいれば、孤独じゃない。
彼が私と同じ「持たざる者」であることだけが、私の唯一の救いだった。
ノートの角を握りしめ、ボロボロになりながらも笑う彼。
私たちは何も持っていない者同士、肩を寄せ合って生きてきた。
彼だけは、私を裏切らない。
彼だけは、私と同じ「0」のはずだったーー。