Tell My World 【ヒロアカ 爆豪勝己】
第4章 ♾️
天空城での盛り上がりとは対照的に、下層の各エリアでは祝祭の熱気が急速に冷え切った困惑へと塗り替えられていた。
「おい、冗談だろ……? ログアウトボタンが出ねぇんだけど」
「通信エラーか? 誰か、運営に問い合わせろよ!」
広場に設置された巨大モニターの前で、誰かが上げた小さな声が、さざ波のように周囲へ広がっていく。
一人、また一人と、空中にメニュー画面を展開しては、青ざめた顔で虚空を連打し始めた。
本来なら、ライブの余韻を噛み締めながら現実へと戻るはずの時間。
だが、何度呼び出そうとしても、あるはずの場所にあのボタンが表示されない。
「嘘だろ、明日仕事なんだよ! 出してくれ!」
広場に集まった数万のミラージュたちが、一様にパニックに陥り始める。
笑い声は悲鳴に変わり、煌びやかな光に満ちていた『ZERO WORLD』はその一瞬で巨大な密室へと変貌を遂げた。
人々はまだ、何が起こったのかを正確には理解していなかった。
ただ、先ほどまで自分たちを魅了していた歌姫の、あの美しくも閉鎖的な旋律が、自分たちを縛り付ける「鎖」になったことだけを、本能的に感じ取っていた。
天空城のパーティー会場できらびやかな衣装に身を包んだミラージュたちの間でも、それは瞬く間に伝染していった。
「おい、冗談だろ? ボタンが出ねぇ!」
「通信エラーじゃないのか……? 誰か、運営を呼べよ!」
優雅な音楽が流れる中、あちこちで虚空を叩く音が響き、焦燥に満ちた声が祝祭の空気を引き裂く。
ログアウトを試みた者から順に、笑顔が凍りついていく。
本来なら帰るべき「現実」への扉が、どこを探しても見当たらない。
天空の楽園と謳われたその場所は、一瞬にして、出口のない美しすぎる監獄へと成り果てていた。
天空城の控え室で、床に伏したままのの耳にも、人々の怒号と泣き声が届き始める。
(……みんなを、巻き込んでしまった)
自分が歌った。
自分が、この世界に招き入れた。
その事実が、彼女の心に毒のように回っていく。
『永遠♾️』を謳ったあの歌詞は、今やこの世界に閉じ込められた数百万人の絶望をあざ笑うかのように、静まり返った城の回廊に響き続けていたーー。