Tell My World 【ヒロアカ 爆豪勝己】
第4章 ♾️
最後の一節を歌い終えたエミリアは、マイクを握る指先が凍りつくような感覚に襲われた。
歌詞を初めて目にした時の、あの得体の知れない胸騒ぎ。
それが今、確信に変わる。
自分の声を媒介にして、この世界の「理」が書き換えられてしまった。
目に見える景色に変化はないはずなのに、大気に混ざる情報の密度が、逃げ場のない檻のように重く、鋭く肌を刺していた。
(……やってしまった)
観客たちはまだ、至高のライブの余韻に酔いしれている。
これから始まる恒例の仮面パーティーへの期待に胸を膨らませ、着飾ったミラージュたちが浮足立っていた。
逃げるようにステージを後にし、独り控え室に戻ったは、震える手で空間にシステムウィンドウを展開した。
華やかな喧騒も、色とりどりのドレスも、今の彼女にはただのノイズでしかなかった。
「……嘘、でしょ」
虚空を叩く指が、激しく泳ぐ。
何度、基本操作のログアウト・シーケンスを呼び出そうとしても、あるはずの場所にあのボタンが表示されない。
代わりに現れるのは、『System: Access Denied』という無機質なエラーメッセージの羅列だけだった。
「戻って……! お願い、戻してよ!」
狂ったようにウィンドウを連打するが、世界は彼女を拒絶し続ける。
その時、脳裏に先ほどの歌詞が、今度は呪いのように鮮明に蘇った。
『永遠に閉じ込めてあげる』
『ここは永遠なる平和な世界ZERO WORLD』
あれはただの比喩ではなかった。
運営が自分に歌わせたあの曲は、全ユーザーの意識を現実(リアル)と断絶するための「鍵」だったのだ。
自分が、大好きなこの場所を地獄に変えた。
自分が、彼が守ろうとしている日常を、自分の声で壊してしまった。
「あ……ぁ……」
膝から崩れ落ち、豪華な控え室の床に突っ伏した。
水色のピアスが、絶望に震える頬に冷たく触れる。
現実世界では今頃、自分の体が抜け殻のように横たわっているのだろう。
多忙を極める爆豪は、異変に気づくことさえできないまま、届かない空の下で戦い続けている。
「爆豪くん……助けて……」
掠れた声は閉ざされた仮想の壁に跳ね返り、誰にも届くことなく霧散していった。