Tell My World 【ヒロアカ 爆豪勝己】
第4章 ♾️
(爆豪くん……見てて。これが今の、私の精一杯だから)
いないはずの彼を心に描き、彼女はマイクを握りしめた。
前奏が響いた瞬間、会場を埋め尽くしたミラージュたちの間に、微かな困惑が走った。
「……あれ? いつもの曲と雰囲気が違う?」
「新曲……? なんだか、空気が重い気がする」
いつもの彼女の歌が持つ、天を駆けるような高揚感がない。
代わりに響き渡ったのは、聴く者の足元を掬い、底なしの深淵へ引きずり込むような、甘美で重厚な旋律だった。
エミリアは、何かに導かれるように唇を動かした。
――触れた瞬間 世界は反転
境界線は溶けていく
帰る場所だけが見つからないーー
透明な歌声が天空城から全エリアへと伝播していく。
優しく、慈しむような響き。
けれど、その歌詞には逃れられない閉鎖的な狂気が滲んでいた。
――終わらないループの中で
永遠に閉じ込めてあげる
ここは痛みも老いもない楽園ーー
歌い進めるほどに、聴衆の動きが止まっていく。
その旋律は、聴く者の心を鎖で縛り付け、現実へ帰る意欲を奪い去っていくかのようだった。
美しい、けれど怖ろしい。
人々はその重圧に戸惑いながらも、抗えない魔力に吸い寄せられるようにステージを見つめる。
――崩壊の交響曲(シンフォニー)が響く時
世界は始まりを告げる
ここは永遠なる平和な世界
ZERO WORLDーー
最後のフレーズが響き渡った瞬間、は自分の喉から溢れ出た言葉の意味に、遅れて戦慄する。
これは祝福の歌ではない。
世界を優しく、けれど確実に作り替えてしまうための「檻」の歌だーー。