Tell My World 【ヒロアカ 爆豪勝己】
第3章 未完の初恋、ログイン不可の心
「まあ、周年祭っていう大きな節目だから、運営側も気合が入ってるのかもね。かっちゃんも楽しみにしてるだろうし。……でも、もし本当にその曲を歌ってて気分が悪くなったりしたら、無理しちゃダメだよ?」
「うん、ありがとう。……少し不安だったけど、緑谷くんに話せてスッキリした。せっかくの祭典だし、世界にお礼ができるように頑張ってみるね」
は、自分の中にあった漠然とした予感を、単なる「大舞台への緊張」だと思い込ませるように微笑んだ。
譜面の端に並ぶ不規則な旋律が、現実の光の中で静かに明滅している。
まだ、誰も気づいていない。
その美しい調べが、平穏な日々にどんな波紋を投げかけることになるのかを。
ヒーロー活動に復帰してからの爆豪は、文字通り嵐のような日々を送っていた。
溜まっていた鬱憤を晴らすかのような苛烈な立ち回りで現場を圧巻し、メディアや世間はその「完全復活」に沸き立っている。
そんな多忙の合間を縫うようにして訪れた、久しぶりの二人きりの時間。
砂浜に腰を下ろした爆豪の横顔には、現場での険しさはなく、どこか充足した色が浮かんでいた。
「……BLAST……あのね、報告があるんだ」
「あ? 改まってなんだよ」
#NAME1は、波打ち際を見つめながら静かに切り出した。
「今年の『ZERO WORLD』8周年祭典でも、歌うことになったよ。……そこで、正式に活動も再開しようと思ってる」
その言葉を聞いた瞬間、爆豪の動きが止まった。
彼はゆっくりと彼女の方を向き、呆然としたような、それでいて心の底から安堵したような、形容しがたい表情を浮かべた。
「……そうかよ。……やっと、その気になったか」
「うん。……お待たせしちゃって、ごめんね。待っててくれて、ありがとう」
「誰が待ってたなんて言ったよ。……勝手に休んで、勝手に戻ってきただけだろーが」
毒づく口調とは裏腹に、爆豪の瞳には柔らかな光が宿っていた。
彼にとって彼女の歌は、暗闇の中で自分を繋ぎ止めてくれた命綱そのものだったからだ。
「当日、楽しみにしてるわ」
「ふふ、ありがとう。今年も特別席、用意して招待するね」
「当たり前だ。一番近くで見せろ」
二人は穏やかな約束を交わし、名残惜しさを残しながらもログアウトした。