Tell My World 【ヒロアカ 爆豪勝己】
第1章 ようこそ『ZERO WORLD』へ
「――おい、いつまで寝ぼけてんだよ。そんなに良かったか? ZERO WORLD」
あの後も、散々遊んだ後ログアウトした爆豪は、不意に現実に引き戻された。
視界を覆っていた光の粒子は消え、代わりに目に飛び込んできたのは自分のマンションの天井と、身を乗り出してニヤニヤとこっちを覗き込んでいる上鳴のツラだった。
「…………っ、……っせぇんだよ」
爆豪は側頭部の金属フレームを乱暴に外すと、起き上がりざまに上鳴を睨みつけた。
全身に感じるのはソファの感触と、少しばかり重たくなった自分の肉体。
そして、個性戻っている感覚。
「いやー、あんなに呆然としてるお前、初めて見たわ。あの歌姫に完落ちだろ?」
「あぁ!? んなわけねぇだろ。ただの、……慣れねぇ視覚情報に酔っただけだわ。とっとと帰れ、クソが」
「はいはい。ま、その顔見ればわかるって! じゃ、俺は行くわ。またあっちでな、BLAST!」
ひらひらと手を振って、上鳴が部屋を出ていく。
玄関のドアが閉まり、静寂が戻った空間。
「…………」
爆豪は自分の右手をじっと見つめ、小さく火花を散らせた。
現実の自分は最強の個性を持ち、人々を救い、金を稼ぎ、順位に追われるプロヒーローだ。
なのに。
「……チッ」
脳裏に焼き付いたあのプラチナブロンドの長い髪と、魂を削り取るような美しい高音は、静まり返ったこの部屋の空気よりも、今の自分にはリアルに感じられた。
それからの爆豪は、取り憑かれたようにログインを繰り返した。
仕事の合間、パトロールの休憩時間、そして深夜。
ジーニストから受ける説教や、デクへの投資資金の悩み、順位への焦燥感――それらが積み重なるたび、彼は吸い込まれるようにデバイスを装着する。
ヒーローとしての仮面も、爆破という暴力的な力も必要ない場所。
ただの「BLAST」として、あの歌声が響く空の下へ。
爆豪勝己はまだ気づいていなかった。
自分が求めているのは、個性のない「自由」ではなく、あの日自分を射抜いた、あの「声」の正体なのだということにーー。