Tell My World 【ヒロアカ 爆豪勝己】
第3章 未完の初恋、ログイン不可の心
七夕の夜。
ZERO WORLD内の特設会場は、仮想空間ならではの幻想的な星空に包まれていた。
『せっかくの行事なんだから、浴衣で来い』
そう爆豪に言われ、は少し迷った末に、昨年とは趣の違う、落ち着いた紺地に朝顔が描かれた浴衣を選んだ。
待ち合わせの広場に降り立つと、そこには既に爆豪の姿があった。
彼は黒を基調とした無骨な柄の浴衣を、驚くほど自然に着こなしていた。
大人の男の余裕と色気が漂っている。
(……かっこいいな)
そう思ったが、口に出そうとすると言葉が喉に突っかかってしまう。見惚れていたのがバレないよう、慌てて視線を泳がせた。
「……お待たせ、BLAST……待った?」
爆豪は腕を組んで立っていたが、彼女の姿を認めると、その鋭い視線がわずかに和らいだ。
彼はまじまじとを見つめると、さらりと言い放った。
「……似合ってんじゃねぇか。前のも悪くなかったが、今日のもいい」
あまりにストレートな称賛に、の頬が一気に熱くなる。
アバター越しでも温度が伝わるのではないかと思うほど赤くなり、下を向くのが精一杯だった。
「……ありが、とう」
会場内は現実の夏祭りのように活気に溢れ、色とりどりの出店が並んでいた。
メインは広場の中央にある巨大な笹の木に吊るされる「短冊」と、会場を一周するように設置された「巨大な流しそうめん」だった。
「すげぇな、流しそうめん……。あんな規模、初めて見た」
「ふふ、本当。なんだか楽しそう」
これまでの七夕といえば、歌姫として大型のライブやイベントに引っ張りだこだった。
煌びやかなステージの上でスポットライトを浴び、数万人の歓声に包まれる日々。
それはそれで幸せだったが、こうして誰かの隣で、屋台の匂いや笹の葉の擦れる音を感じながらゆっくり過ごすのは、いつぶりだろうか。
「……久しぶりだな、こういうの。……悪くねぇ」
爆豪が隣で、自分と同じように会場を見渡しながら呟く。
彼もまた、戦いの日々の中で、こうした「当たり前の季節」を置き去りにしてきた一人なのだ。