Tell My World 【ヒロアカ 爆豪勝己】
第3章 未完の初恋、ログイン不可の心
「七月七日……来月の七夕。予定はどうなってんだ」
#NAME1は少しだけ虚を突かれた。
今の彼女は歌姫としての活動を止め、日々を静かに過ごしている。
過去の記事を読み漁り、英雄となった同級生たちの足跡を追い、そして爆豪のことを考える――そんな、止まったような時間の中にいた。
「七夕……? 特には、何も……どうしたの?」
「なら、付き合え。久々にこっちで『デート』だ」
あまりに直接的な誘いに、#NAME1は一瞬息を呑んだ。
アバター越しでも、爆豪の真っ直ぐな意志が伝わってくる。
「デート……? でも、何をするの? この場所じゃなくて、別のところに行くってこと?」
「ああ。『ツクヨミ・レルム』で七夕のイベントがある。……星空とか好きだろ。付き合えっつってんだよ」
強引な口調。
だが、その裏に隠された「彼女を喜ばせたい」という不器用な献身を、今の彼女は見逃せなかった。
こうして一人の女性として自分を誘ってくれる彼。
(……この人は、本当に私を大切にしようとしてくれてる)
過去の罪悪感と、現在の幸福感が胸の中でせめぎ合う。
少しだけ考え込んだ後、彼女は小さく頷いた。
「……うん。わかった。私も、あなたと星が見たい。……行こう?」
その返答を聞いた瞬間、爆豪の強張っていた肩の力が、目に見えて抜けた。
「……そっかよ。なら決まりだ。当日、遅れんなよ」
安堵したような、ほんの少しだけ照れを含んだ顔を見せると、彼は「じゃあな」と短く告げて、逃げるようにログアウトしていった。
一人残された入り江で、#NAME1は自分の胸に手を当てた。
七夕。
織姫と彦星が、一年に一度だけ許される再会の日。
その日、自分はどんな顔をして、この真っ直ぐな光の中にいればいいのだろう。
仮想の海風が、彼女の髪をやさしく揺らしていた。