Tell My World 【ヒロアカ 爆豪勝己】
第3章 未完の初恋、ログイン不可の心
彼は、ただ強かったわけじゃない。
自分の犯した過ちを、弱さを、そして仲間への想いを抱えて、ボロボロになりながら、それでも前へ進むことを選んだのだ。
それに比べて、自分はどうだろう。
いじめられた記憶に閉じこもり、過去から一歩も動けずにいた。
彼らが世界の終わりを食い止めるために必死だったとき、自分はただ、自分の傷口を見つめていただけだった。
「……私の悩みなんて、彼らに比べたら……」
あまりにも巨大な「現実」の重みに、#NAME1は息苦しさを感じて胸を押さえた。
彼が歩んできた道は、血と汗と涙で舗装された、過酷なヒーローの道だ。
一方、自分が歩んできたのは、過去を拒絶し、仮想の世界に逃げ込んだ孤独な道。
爆豪が今、自分に向けてくれている真っ直ぐな想い。
それは、彼が地獄を潜り抜けて手に入れた、清廉な「愛」なのだ。
対して、自分の心にあるのは、過去の恨みと現在の恋慕が混ざり合った、歪な感情。
その温度差に、#NAME1はひどく打ちのめされた。
こんな自分が、彼の隣に立つ資格などあるのだろうか。
彼が見ているのは、光り輝く『#NAME4』であって、泥の中に立ち止まったままの自分ではないのではないか。
窓の外では、今日も平和を取り戻した街の灯りが煌々と輝いている。
その光を作った一人である爆豪の活躍が眩しければ眩しいほど、彼女の心には深い影が落ちていった。
現実の世界では、梅雨の湿り気が街を重く沈めていた。
連日の雨は爆豪にとっては、掌の汗を爆発させる個性の性質上、コンディション調整がもっとも苛立たしい季節だ。
いつもの入江の砂浜に座り、水平線を睨みつける爆豪が、忌々しげに舌打ちをもらす。
「……チッ、どいつもこいつも雨、雨ってよ。さっさと梅雨明けやがれ。湿気で爆破のキレが鈍るんだよ」
愚痴をこぼしながらも、その意識は隣に座る彼女に向けられていた。数メートルの距離は相変わらずだが、彼の声には以前のような刺々しさは消えている。
「……本当に雨が嫌いなんだね」
「当たり前だ。……おい」
爆豪は思い出したように問いかけた。