Tell My World 【ヒロアカ 爆豪勝己】
第3章 未完の初恋、ログイン不可の心
「ああ。あと数日もすりゃ、現場に出る。……デスクワークなんざ、御免だ」
「数日……? 早すぎるよ。あんなに酷い怪我だったのに、もう少しゆっくり休まないと……」
彼女の言葉には、隠しきれない懸念が滲んでいた。
一人の人間として、彼の身を案じている響き。
爆豪はそれが少しだけくすぐったくて、鼻を鳴らした。
「ケッ、動いてねぇと、体の錆が落ちねぇだろーが」
「でも……」
「……心配すんな。テメェに『会いに行く』って約束したんだ。……約束守る前にくたばるようなヤワな真似、俺がするわけねぇだろ」
その言葉に、彼女は言葉を失ったように俯いた。
爆豪が真っ直ぐに向けるその「誠実さ」こそが、今の彼女には一番眩しく、そして苦しい。
(爆豪くん……。あなたは本当に、変わったんだね……)
夜風が二人の間を通り抜けていく。
距離はまだ遠い。
けれど、爆豪の不器用な決意が、静かに夜の砂浜に刻まれていった。
爆豪が現場に戻ったという報せは、瞬く間に世界を駆け巡った。
テレビのニュース画面の中で、彼は以前と変わらぬ苛烈な動きでヴィランを制圧していた。
その戦い方には以前にはなかった「慎重さ」と、市民を背に負う揺るぎない覚悟が宿っている。
「……本当に、もう復活したんだ」
#NAME1は自室の薄暗い灯りの中で、タブレットの画面を指でなぞった。
画面の中の彼は、もう自分を虐めてた傲慢な少年ではない。
誰もがその背中に希望を託す、本物のトップヒーローだ。
彼女は、それまで意識的に避けてきた「八年前」の記録を、憑かれたように調べ始めた。
自分が部屋に引きこもり、世間の喧騒から耳を塞いでいたあの頃。
日本中が地獄の底に突き落とされ、治安が崩壊し、混沌に飲み込まれていた時代。
検索結果には、目を覆いたくなるような戦場の記録が並んでいた。
そこには、自分と同じくらいの年齢だったはずの同級生たちの姿があった。
緑谷を筆頭に、誰もが心身を削り、泥を啜りながら、崩壊しかけた世界を繋ぎ止めるために戦っていた。
(……みんな、こんな場所で戦っていたんだ)
爆豪が死の淵から蘇り、心臓を撃ち抜かれながらも立ち上がったという記事を見つけたとき、話には聞いていたが彼女の指先は凍りついたように動かなくなった。