Tell My World 【ヒロアカ 爆豪勝己】
第3章 未完の初恋、ログイン不可の心
爆豪は納得がいかないように鼻を鳴らしたが、緑谷の真っ直ぐな瞳を見て、それ以上の追及を止めた。
「……ケッ、どいつもこいつも回りくどい真似しやがって」
「でも、これだけは言えるよ」
緑谷は、少しだけ切なげに、けれど確信を込めて微笑んだ。
「きっと、そう遠くない未来に、君たちはちゃんと会えると思う。……君が死ぬ気でリハビリしたみたいに、彼女も今、必死に自分の心と戦ってるんだ。……だから、かっちゃん。信じて待っててあげて。僕は……全力で二人を応援してるから」
「……応援なんて要らねぇよ。……勝手に待っててやるわ」
爆豪は窓の外を向き、照れ隠しに冷めたコーヒーを啜った。
彼女が何を隠していようと、どんな過去を持っていようと、今の自分を救ったのは間違いなく彼女なのだ。
(……待っててやるよ、クソが。……テメェが俺の隣に立つ覚悟ができるまで、な)
初夏の陽光が、不器用なヒーローの背中を静かに照らしていた。
月の光が冷たく落ちる入り江。
一ヶ月ちょっと前の甘く熱烈なやり取りが嘘のように、二人の間には凪いだ海のような静寂が横たわっていた。
砂浜に腰を下ろす距離も、以前のようにお互いの肩が触れ合うほど近くはない。
二人の間に空いたその数メートルの空白は、まるで彼女の警戒心そのものを形にしたようだった。
爆豪はその距離を、痛いくらいに寂しく感じていた。
かつての彼なら「もっと近くに来い」と強引に引き寄せていたかもしれない。
だが、退院直前のあの夜に感じた、彼女の微かな拒絶――薄い氷の壁を隔てたようなあの感触が、彼の我を抑え込ませていた。
(……今は、ここに居られるだけでマシなんだろ)
そう自分に言い聞かせ、爆豪はただ波打ち際を見つめる。
今は彼女を追い詰めるわけにはいかない。
一度失いかけた繋がりを繋ぎ止めているのは、その謙虚な自律だけだった。
沈黙を破ったのは、彼女の穏やかな声だった。
「……ヒーローとしての復帰は、もうすぐなの?」
爆豪は少しだけ肩を揺らし、ぶっきらぼうに答えた。