Tell My World 【ヒロアカ 爆豪勝己】
第3章 未完の初恋、ログイン不可の心
「……なぁ。ヒーローとか肩書きとか、そんなんどうでもいい。俺が待ってたのは、……会いたかったのは、画面の向こうのリアルなお前なんだよ」
「……ありがとう。……嬉しいよ」
彼女は俯いたまま、寂しそうに微笑んだ。
その表情を盗み見ようとして、爆豪はふと、ずっと気になっていたことを口にする。
「……ところでよ。なんで最近、歌ってねぇんだ? 活動休止中だってのは聞いてるが……」
世間では喉の病気だとか、引退説まで流れている。
だが、今の彼女の声を聞く限り、変調があるようには思えなかった。
「……ああ、それ? ……ふふ、大した理由じゃないよ」
彼女は少しだけ顔を上げ、夜の水平線に視線を投げた。
「ちょっとね、疲れちゃったの。……ずっと走り続けてきたから、少しだけ休憩してるだけ。……それだけだよ」
「……休憩、だぁ?」
爆豪は眉根を寄せた。
彼女の歌には、魂を削り出すような熱量があった。
それを「疲れたから休む」の一言で片付けられるような、薄っぺらな情熱には見えなかったからだ。
(嘘だ。……いや、嘘じゃねぇんだろうが、全部じゃねぇ)
爆豪の直感が警鐘を鳴らしていた。
これ以上踏み込めば、この脆い関係が音を立てて崩れてしまう。
今の自分にはその欠片を拾い集める自信も、彼女を繋ぎ止めるすべも持っていない。
「……そうかよ。……まぁ、テメェがそう言うなら、まあ、そうなんであろうな」
「……信じてくれる?」
「……信じるしかねぇだろ。……俺は、テメェの口から出る言葉が……全部だと思ってる」
あえて深く追求せず、爆豪は鼻を鳴らした。
彼女が何かを隠している。
自分には言えない深い闇や、あるいは過去がある。
それを暴くことが、彼女を救うことになるのか、それとも永遠に失うことになるのか。
「……なあ。これからも、ここに……。会いに来てもいいか」
その問いは、かつての彼なら考えられないほど控えめで、拒絶を恐れる響きを孕んでいた。
は波打ち際を見つめたまま、すぐには答えられなかった。
胸の奥で、過去の傷跡が疼く。
けれど、緑谷が真剣な眼差しで告げた言葉が脳裏を駆け巡った。