Tell My World 【ヒロアカ 爆豪勝己】
第3章 未完の初恋、ログイン不可の心
「……なあ」
爆豪が、恐る恐る口を開く。
「……あの日のこと、聞いてもいいか。……現実(リアル)で会う約束をした日。……あの日、あそこに来てくれたのか?」
は、ぎゅっと自分の胸元を掴んだ。
視線を伏せ、震える唇を開く。
「……うん。……行ったよ。……約束した場所まで、ちゃんと」
「……っ! じゃあ、なんで……」
なんで、俺の前に現れてくれなかったんだ。
その言葉を、爆豪は飲み込んだ。
彼女の表情があまりに苦しげだったからだ。
「……驚いちゃったの。……そこにいたのが、誰もが知ってる……有名なヒーローだったから」
「……ヒーロー……?」
爆豪は虚を突かれたように目を見開く。
彼女にとっての自分は、ただの『BLAST』という一人の男でしかなかったはずだ。
「……あんなに立派なヒーローが、待ってるなんて、思わなくて。……私なんかが、その隣に立ってもいいのかなって。……怖くなって、逃げちゃったの」
「……っ、何言ってんだよ。そんなの関係ねぇだろ……!」
爆豪は叫びそうになった。
だが、彼女の肩が微かに震えているのを見て、言葉を失う。
彼女が感じている「戸惑い」の本当の理由は、ヒーローという肩書きだけではない。
彼があの爆豪だと知ったからこそ、踏み出せないでいる。……それを、今の爆豪はまだ知らない。
「……ごめんね。……まだ、自分の名前を名乗る勇気が、持てないの」
「……っ、………そうかよ」
爆豪は拳を握りしめ、自分に言い聞かせるように呟いた。
嫌われたわけじゃない。
拒絶されたわけでもない。
ただ、彼女が戸惑っているだけだ。
そう自分を納得させようとして――けれど、胸の奥に澱のように溜まる違和感を、彼は拭い去ることができなかった。
「……そうかよ。プロヒーローだろうが何だろうが、俺は俺だ。……そんなもん、関係ねぇっての」
爆豪は吐き捨てるように言ったが、その声にはいつもの刺々しさはなく、どこか自分に言い聞かせているような響きがあった。
目の前にいるエミリアが微かに震えているのを見て、彼は握りしめた拳をゆっくりと解く。
違和感があった。
「有名なヒーローに驚いた」という言葉。
嘘ではないのだろうが、それだけで、あの日あそこまで頑なに姿を消し、連絡を断つものだろうか。