Tell My World 【ヒロアカ 爆豪勝己】
第3章 未完の初恋、ログイン不可の心
退院を翌日に控えた夜。
爆豪は病院のベッドの上で、はやる鼓動を抑えながらデバイスを装着した。
入り江に降り立つなり、爆豪は震える指で操作パネルを叩いた。
ずっと、あいつに伝えたかった言葉。
『……明日、退院が決まった』
短く、無骨なメッセージ。
だが、その裏には「やっとお前に会いに行ける」という爆豪なりの精一杯の歓喜が詰まっていた。
『……一ヶ月、死ぬ気でリハビリした。……約束通り、真っ先にここに来たぞ』
水平線の向こうを見つめながら、爆豪は返信を待つ。
かつての自分なら、こんな風に誰かの一言に一喜一憂することなど、あり得なかった。
(……来い。……来いよ、……エミリア)
夜の波音だけが響く静寂の中。
爆豪は、運命の扉が開く瞬間を、祈るような心持ちで待ち続けていた。
月の光が、静まり返った入り江を青白く照らしていた。
光の粒子が砂浜に集まり、ゆっくりとあの歌姫の姿を形作っていく。一ヶ月以上もの間、爆豪が病室のベッドで夢にまで見た、愛しくてたまらない『エミリア』の姿。
「……っ、エミリア……!」
爆豪の胸が歓喜で激しく脈打つ。
死ぬ気でこなしたリハビリも、リカバリーガールに頭を下げてまで急がせた治癒も、すべてはこの瞬間のためにあった。
彼ははやる気持ちを抑えきれず、彼女の方へ一歩踏み出そうとした。
「……あ」
が、その足が不自然に止まる。
以前のような、甘く溶け合うような空気がない。
目の前に立つ彼女からは、目に見えないほど薄く、けれど決定的な「壁」のような拒絶が漂っていた。
「……退院、本当におめでとう。……あんなに大きな怪我だったのに、一ヶ月で戻ってくるなんて……。本当に、すごいね」
声は優しいけれど、どこか遠い。
爆豪は喉の奥に詰まった喜びを飲み込み、慎重に言葉を返した。
「……ああ。……アンタに、一秒でも早く会いたかったからな。……クソほど、待ちくたびれたぜ」
精一杯の強がり。
けれど、その視線は彼女に釘付けだった。
沈黙が流れる。
波音だけが、二人の間の距離を強調するように響いた。