Tell My World 【ヒロアカ 爆豪勝己】
第3章 未完の初恋、ログイン不可の心
は、手元の湯呑みをじっと見つめた。
自分が夢の世界で出会った、ぶっきらぼうで、けれど誰よりも温かかった『BLAST』
その正体は、数々の死線を越え、自分の過ちを認め、泥を啜りながら成長した成れの果てだった。
緑谷の言葉が、彼女の頑なな心をゆっくりと溶かしていく。
憎んでいたはずの過去と、愛してしまった現在。
その間に架かる橋はあまりにも険しく、けれど確かな温もりを帯びていた。
「……ありがとう、緑谷くん。……私、もう少しだけ頑張ってみる」
「うん。かっちゃん、今、君の歌を毎日聴きながらすごい勢いでリハビリ頑張ってるからさ。……完治する頃には、笑って会えるといいね」
「……うん、そうだね」
二人は静かに微笑み合い、再会を約束して店を後にした。
夜の帳が下りる街。
は夜空を見上げ、病室で眠るであろう彼に思いを馳せた。
「……っ、ハァッ、……死ね……ッ!」
リハビリ室の重苦しい空気の中、爆豪の荒い呼吸と金属音が響き渡る。
全身に走る激痛を、彼は力ずくでねじ伏せていた。
一ヶ月前、死の淵を彷徨った男の動きではない。
だが、今の爆豪を突き動かしているのは、ヒーローとしての矜持だけではなかった。
(待ってろ……。こんなところで、止まってられるかよ……!)
耳元のイヤホンからは、いつだって彼女――『エミリア』の歌声が流れている。
リハビリの苦痛に意識が飛びそうになるたび、その透明な歌声が彼を現実へと引き戻し、折れそうな心を繋ぎ止めていた。
「あんまり無茶しちゃダメさね……。アンタ、自分の寿命を前借りしてるようなもんだよ」
呆れたように、けれどどこか感心したように、リカバリーガールが治癒を施す。
「………さっさと動けるようにしろ、クソババァ」
なりふり構わぬ執念。
「早く現場に戻りたい」という願いと、「一日でも早く、あいつのいる場所へ行きたい」という剥き出しの渇望。
その二つが爆豪の中で一本の鋼となって、一ヶ月という驚異的なスピードで退院の許可を捥ぎ取らせた。
まだヒーローとしての前線復帰には時間がかかるが『ZERO WORLD』へ行く許可は出た。