Tell My World 【ヒロアカ 爆豪勝己】
第3章 未完の初恋、ログイン不可の心
光の粒子が視界を埋め尽くし、爆豪の意識はいつもの「入り江」へと降り立つ。
潮騒の音が耳に届くと同時に、デバイスが小さく震えた。
『……生きててくれて、ありがとう。無理しないで、ゆっくり休んでね』
その一文を目にした瞬間、爆豪は肺の空気をすべて吐き出すように短く息を漏らした。
ブロックされていたはずの彼女からメッセージが届いている。
(……やっぱり、来てたんだな。あいつ……)
病室に残っていたあの花の白の包装紙に青いリボン。
そして、この慈しむような言葉。
爆豪は震える指先を操作パネルに這わせた。
傷だらけの現実の身体が疼くが、それ以上に胸の奥が、焦がれるような熱を帯びて痛い。
『……生きてる。テメェが来ねぇから、死ねるわけねぇだろ』
乱暴な言葉を打ち込み、けれど送信する直前で消した。
今の自分にそんな強がりは似合わない。
『……無事でよかった。心配かけて、悪かったな』
それだけを送ると、爆豪は続け様に、魂を削り出すような思いでメッセージを綴った。
『……会いたい。現実(リアル)が怖ぇなら、ここでいい。一目だけでいいから、顔を見せてくれ。……頼む』
かつて「無敵」だった少年が、一度も口にしなかった「頼む」という言葉。
その後ろ姿を、少し離れた岩陰から緑谷は静かに見守っていた。
(かっちゃん……。君が今、必死に手を伸ばしている相手が、かつて君が突き放したあの子だって……。もし知ったら、君はどんな顔をするんだろう)
緑谷の瞳には、かつての「無個性」な自分たちを、あるいは自分自身の弱さを、力でねじ伏せようとしていた爆豪の背中が重なって見えた。
けれど今の爆豪の背中は、ひどく小さく、そして脆い。
一方、自室でそのメッセージを受け取ったは、画面を凝視したまま動けずにいた。
『エミリア』として向けられる、あまりに純粋で痛々しいほどの求愛。
返信を打とうとする指が止まる。
一歩進めば、もう二度と「知らなかった頃」には戻れない。
静まり返った入り江に、爆豪の荒い呼吸の音と、緑谷の隠しきれない溜息だけが、切なく響き渡っていた。