第5章 未来視
言い終わるか終わらないかのうちに、周囲に光が溢れた。
たしかに眩しい。博士は思わず目を閉じてしまった。そして、ゆっくりと目を開く。
「こ・・・これは・・・」
全面に映像が投影されていた。どうやらこの部屋は360度に映像装置を配し、視聴する人間を擬似的に映像内に取り込むような・・・そんな意図を持って作られたもののようだった。視覚情報のみの刺激なので、現在広く使われている脳神経へのリンクを用いた仮想現実生成装置と、そのリアリティは比べ物がないが・・・ないのだが・・・。
博士が驚いたのはその映像コンテンツだった。
色彩が、溢れていた。
どこかの丘陵地帯なのだろうが、大地は丈の低い植物で覆われており、一枚一枚色合いの違う【ウィリディス】が延々とどこまでも続いていた。そして、その上には・・・
「なんて・・・ことだ・・・カエラゥス・・・なんと、鮮やかな」
空は一面になんとも鮮やかな【カエラゥス】一色だった。どこまでも抜けるように広がる美しい空に、時折小さな動物が羽ばたいて飛んでいるのが見えた。
胸の奥から湧き上がるほどのこの郷愁の思いは何だ。
この心が震えるほどの、焦がれるような熱さは、いったい・・・。
「『青』ですわ」
いつの間にか後ろにいたシショが言った。
「『青』?」
「この空の色は、下代・・・22世紀頃まで、この地では『青』と呼ばれていました、『空色』とも」
「これ・・・『青』・・・『空色』・・・まさか・・・!」
「そうです。私達を取り巻く『外』の本当の姿・・・かつて空は青かったんです」
博士の瞳になぜか涙が溢れてきた。
全てが、つながった気がした。
しゅーん・・・と小さな唸りに似た音を立て、周囲が再び暗闇に包まれた。
「時間にして、3分38秒・・・これが、世界に残された最後の『空』の映像記録です」
そうか・・・そうなんだ・・・
ああ!そうか!!
「意味が・・・あったんだ」
そう、意味があった。
人は、誰に教わらなくても、たとえ文明全体がそれを忘れていても、その身に、その細胞のひとつひとつに、この景色を刻んでいた・・・。
「だから・・・なのか」
「そうですね。私は博士のように心理学の専門ではありませんが、背景を【カエラゥス】・・・青に塗ると聞いて、この映像を思い出しました。」