第5章 未来視
意外な答えに博士は戸惑う。自身がこれほどに悩む研究テーマの解が簡単・・・である訳が無い。なにか、勘違いをしているとしか思えなかった。
博士は自身の研究で問題となっていること、カエラゥス・シンセシスや、その発生機序が現在まで不明であることについてかいつまんで語って聞かせた。
「生体は、意味がないことはしない。それが私の信念だ。この発達上の現象にも、何らか理由があるはずなんだ」
最後にそう締めくくると、シショは右手をあごに添え、少し目を伏せた。
「博士は、そのカエラゥス・シンセシスがなぜ起こるのか、その理由をお知りになりたいのですね?」
「ああ、そうだ」
「その現象に関連があると思われる資料に心当たりがあります。・・・ご覧になりますか?」
そんなものが・・・?
博士はソファから立ち上がった。そんな物があるならぜひ見てみたい。
たとえ、それがシショの勘違いであったとしても、もしかしたら何らかのブレークスルーのヒントくらいにはなるかもしれないからだ。
「それでは少々お時間をくださいませ。なにせもう10年ほど起動させていないデバイスでございますので・・・」
シショは一礼して背後の扉の向こうに消えていった。
果たして30分ほどのち、彼女が戻ってきた。
「博士、それでは参りましょう。昇降機を使います。」
シショが博士を昇降機と呼ばれる個室に案内する。これはかなり原始的な仕掛けだが、要は機械的な仕掛けでフロアを行き来する装置である。個室に出入りする扉の左手にフロアの案内が文字で記載されていた。
「8階になります」
シショが右手のコンソールを操作すると、奇妙な浮遊感がある。どうやら個室自体が上昇しているようだった。
フロア案内を見ると、8階を示す箇所には『映像資料室』と書かれていた。
チン、と軽い音がして、個室の動きが止まる。扉が開くとそこは漆黒の闇だった。
「博士、こちらで少々お待ちください」
いつの間にかいま出てきたばかりの個室は消えていた。どうやら床下に機械的に収納されたようである。真っ暗な中、どうやって移動しているのかシショは迷わずに正面方向に歩き始め、やがてその姿は見えなくなった。
しばらくすると、闇の中から彼女の声が聞こえてきた。
「それでは始めます。眩しいかもしれませんのでご注意ください」