第5章 未来視
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博士は地上38階の渡り廊下を歩いていた。
腰から上がガラス張りのその通路は、この『ドーム』においてほぼ唯一と言っていい、一般人が『外』を目にすることができるエリアだった。
ちらと博士が『外』を見る。
轟々と音を立てて吹く風に、強度に酸性に傾いた雨が煽られ通路のガラスを打ち付ける。
今日は一段と荒れているな・・・
そう、博士は思っていた。
人類が『外』で暮らさなくなって1000年が経過していた。
技術革新によってもたらされた作用不明の化学物質、度重なる戦争による放射能汚染、そして、地磁気の変化によるオゾン層の壊滅的破壊などにより、『外』が人類の生存に適さなくなって久しい。
こんな風に酸性の雨が降ったかと思えば、『ケミカルフォグ』と言われている東洋系人類の髪の毛の色をかなりくすませたような濁った色の雲が下降気流に乗って大地に立ち込めることもある。最も安定しており観測に適しているとされている天候でも、空には舞い上げられた砂が立ち込め、太陽の光を乱反射させていた。
この通路の向こうは、通常使われることがないエリアである。”図書館”を始めとし、今は使われなくなった施設が多数存在している。下代史の専門ではないので詳しくはないが、人類が『ドーム』を作った時、首都機能を有していたエリアであると聞いたことがある。
現在は、その文化的・歴史的な価値の保存のために、政府に雇われた少数の職員がその維持管理に当たっているのみであり、博士自身のようなよほどの物好きか、特殊な分野の研究者が訪れるくらいであった。
シュン、と軽い音を立てて扉がスライドした。
「あら、博士・・・こんにちわ」
馴染みの今の”図書館”の職員・・・彼女は自身のことを『シショ』と呼んでいるが・・・が、にこやかに挨拶をしてきた。『シショ』に当たる漢字を教えてもらったことがあったが普段使いつけないものであり、何度聞いても忘れてしまう。
「ああ、こんにちわ」
博士はシショのいるフロアに用意されていたソファに腰を下ろした。
「なにか、資料をお探しですか?」
「いや、今日はそういうわけではないんだ」
「では、自由閲覧ですね」
「まあ、そういうことだ」