第5章 未来視
博士が見ていた被験者の絵は助手も何度か目にしている。確かに博士がおかしいと感じているパターン・・・彼が『カエラゥス・シンセシス』と呼んでいたそれは、一様に物体の背景に当たる部分、もしも外に出たとしたら『宙』に当たる部分が同系統の色で塗られているのが特徴だった。
別にこの現象自体、本人や周囲の人が困る、という類のものではない。
そもそも、これは成長とともに消えていくものだった。
通常の児童心理学の教科書では、成長の過程で現れる一種の過渡的現象として捉えられ、それほど重視されないでいた。
ところが、この博士はこの現象に異常に興味を持っていたのだ。
そして、大勢の被験者をドーム中からかき集め、絵を描かせてはこうして研究を重ねているというわけだった。
「ああ・・・」
考え疲れたのかもしれない。博士は呆けたように一声漏らすと、ぐっと伸びをした。無理もない、博士はこの現象の原因究明を今期の論文テーマに選んでいるのだ。しかし、その執筆はほとんど進んでいないのだ。
共通点を探したい。
そのために、『カエラゥス・シンセシス』を示す子供の生活習慣から遺伝情報、脳内電気信号のパターンまで調べ尽くした。それでも、何一つ、出てこないのだ。
彼らは、現象を示さない子どもと、何一つ変わるところがないのである。
博士がおもむろに立ち上がった。
「お出かけですか?」
助手が尋ねると、そのままふらふらと部屋の外に出ていった。
「”図書館”に行ってくる」
彼は、そう言い残して、扉を出た。