第1章 京都にて
「あー。」
五条は何と切り出そうかと言葉に迷っていた。
「最近、どう?」
そして出たのはありきたりな言葉。
実家で肩身の狭い思いをしているのではないかと、歌姫に言われたなんて言えるはずもない。
「お父様にもお母様にもよくしていただいていますよ。」
いつもと変わらずにこにこと笑って模範解答のように答えるに、五条は困った。
そう答えるしかない。
(やっぱり少し苦手かもしれない)
冷たいわけではない。でも、自分に懐いてるわけでもない。
愛される努力も何もしてないのだから当たり前なのだが。
(嫁としては普通か…)
五条は「そう。」と答えるしかできなかった。
「ところで、これなんて言ったっけ。美味しいね。」
「萩の月です。台所を任せている山本の奥様の実家が山口と聞いて、帰省の際に頼んだんです。私も好きなので。」
「山本?」
「……えぇ。使用人ですよ?」
「名前覚えてるんだ。」
「もちろんです。」
は、口をきゅっと結んだ。
そして、またゆっくりと微笑んだ。
「……三代前からです。」
「ふーん。そこまでおぼえてるんだ、すごいね。」
「いえ。家を任されておりますので。」
「奥様。」
襖の向こうで声がして、と五条は話を止めるとそちらに視線を向けた。
が座ったまま襖に指先をかけ、数センチだけ開けると紺の着物の男性が座ってこちらに声をかけていた。
「仕立て屋の方がおいでです。」
「あら、もうそんなお時間でしたね。亀の間にお通ししといてくださる?あとで向かいます。お茶とかもよろしくね。」
「はい。」
に言われ、五条に一度頭を下げると男性はすぐに下がっていった。
「来客予定だったの?」
「はい。悟様、申し訳ありません。」
「いいのいいの、何も言わずに帰ってきたのは僕だしね。」
それでは、ごゆっくり。
そう言っては部屋から出て行ったのを見て、五条は堅苦しさと緊張が解けたのか、足を崩しはぁぁと、息を吐いた。