第1章 京都にて
歌姫と別れ、五条は嫁いできた嫁のことを思い起こしていた。
名前は。
流石にそれは覚えている五条は、式でのことやたまに帰る実家のことを思い出した。
両親が選んだ女性だ。
五条家の顔に泥を塗るような人は選ばれないのはわかっていた。
確かに綺麗な女性だった。
凛として、真面目な表情……少しを冷たい印象だが、親戚や他の縁者と会話をするときはきちんと微笑み嫁を務めていた。
夜の営みは初夜の一度のみ。
それはまるで伝統的な儀式のように行われるだけだった。
だからといって、会話がないわけではなかった。挨拶で実家によれば僕のそばに来て報告やら、家のことを話してくれた。
ーー…まぁ数回だが。
苦手ではないが…まだ情も湧かない。
「いや、やっぱりちょっと苦手かも。」
五条の口からぽつりとついもれた言葉。
しかし、先ほど言われた歌姫の言葉も思い出した。
『肩身の狭い思いしてるんじゃない?』
五条家の力のせいで嫁がされた女性。
帰ってこない夫。
「帰るか。」
歌姫に言われたから実家に帰るのは少し癪だが、五条は実家へと帰ることにした。
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京都校からは、さほど離れていない五条家本家の正門はそれは大きな佇まいで、これぞ伝統的な良家である言わんばかりの荘厳ぶりであった。
「坊ちゃん!!」
「坊ちゃんはやめろって…」
門を入ったところにちょうど庭いじりをしていた五条家に仕えるじぃがいて、急に帰ってきた五条に驚いていた。
「こりゃすいません。とっさに言うてしもて、おかえりなさいませ悟さん。」
にこにこ笑うじぃは、五条が小さい頃ころからいる年配の男性だ。
1番五条をよく知る人物だ。
「今回はまた呼び出しで?」
「いや、ちょっと近くに来たから寄っただけ。」
「ほぉ、悟さんが珍しいですな。結婚されたからですかね。」
「……」
五条は軍手を外しながら笑うじぃをじとりと見た。
何もかもお見通しらしい。
いつもなら寄りもしない家に理由もなく帰ってきたのは、嫁が気になったからだと。