第5章 陸
「今日からここで過ごせ」
と、言われた部屋は直哉の部屋の隣だった。
今まで使用人用の棟にあった部屋はガランと空き
新しく用意された部屋には、真新しい布団が準備されている。
(これ…三つ布団だ…)
かつて、上級花魁が使用したという三つに重ねて使う布団。
暖かく寝心地がいいとされていたが、現代で見かけるのは初めてだ。
(これが私の…評価ってことかな…)
お気に入りの花魁。
彼とって自分はそういうものなのだろう。
と、は静かに納得する。
そこに屈辱や、悲しみはない。
むしろ、評価に値してよかったとまで思っている。
真新しい絹の表面を撫でていると、戸が開き
振り返れば直哉が立っていた。
はすぐに立ち上がると、入り口に駆け寄る。
直哉は部屋の入り口に立ったまま、片手で襖を軽く押さえて中を眺め回した。
「どうや、気に入ったか?」
声はいつも通り、軽く投げかけるような調子。
でもどこか、の反応を値踏みするような目つきが混じっている。
は姿勢を正したまま、静かに答えた。
「はい、とても……素敵なお部屋をありがとうございます。
こんなに立派な布団まで用意していただいて、恐縮です」
直哉は小さく鼻で笑うと、ゆっくり部屋の中へ足を踏み入れた。
新しい畳の匂いと、絹の微かな香りが混じる。
「恐縮せんでもええよ。
ただ、俺の部屋のすぐ隣の方が都合ええだけや。
毎晩呼ぶんも楽やし、監視もしやすいしな」
さらっと言ってのける言葉に、棘はない。
ただ事実を並べただけのような、淡々としたもの。
は返事の代わりに目を伏せる。
直哉は一瞬、動きを止めた。
それから、くっと喉の奥で笑う。
「ほんま、ええ子やな、ちゃん」
彼はのすぐ傍まで歩み寄り、
新しい三つ布団の上にどさりと腰を下ろした。
布団がふわりと沈み、絹の表面が小さく波打つ。
「なぁ、今夜こっちの部屋でえぇわ
……お前がどれだけ『評価に値する』か、
ちゃんと確かめなあかんしな」
直哉は顎を軽く上げ、
いつものように人をからかうような、でもどこか本気の光を宿した目でを見上げた。