第26章 生活編
しばらくして勤務先のブティックで、いつも通り働いていたとき。
めずらしくオーナーのイリスが二店舗目のこの場所に顔を出していた。
「名無しちゃん、順調そうね」
「はい、オーナー。夏服もばっちり売れ行きいいですよ。お客様、このレースのブラウスとサマーブーツ、とくに気に入ってくださってて」
接客の合間に伝えると、彼女も満足げに頷いた。
「それも嬉しいんだけどさ。あなたの私生活もよ」
「…あっ! もちろんですよ、はは。役所に行く日も決まりましたし」
「そうよね、おめでとう。結婚式は来年?」
「はい。今年は引っ越しとか入籍があるので、来年以降にしようって」
ふむふむ、とイリスは真面目な顔で耳を傾けている。
「楽しみよね、素晴らしいわ。私も行っていいのかしら」
「えっ当然だよ! イリスさんは身内席にいてもらうんだからね」
ついあなたが砕けた調子で言うと、彼女は喜びながら笑っている。
「ありがとう、楽しみにしておきましょうか。じゃあさっそく仕事の話もあるんだけど。秋だから大丈夫そうね。実はうちと契約してるジュエリーデザイナーの新作パーティー、二店舗で催すことになったのよ。本店はベテランの彼女が担当するんだけど、ここも彼女のサポート受けながら、名無しちゃんに任せようかなと思って」
妖艶なウインクとともに、予期せぬことを伝えられ、あなたは何度も瞬きをした。
「えええ! 私でいいんですかっ?」
「もちろんよ。勤務態度もしっかりした、顧客の信頼も勝ち取っている三年目の強力なスタッフよ。ぜひやってもらいたいの」
そうはっきりと告げられて、緊張感が漂いながらも、あなたは即座に頷いた。
「任せてください、精一杯努めます!」
「よかった。じゃあよろしくね。お披露目パーティーだし、新しい契約が絡んでるとかじゃないから、そこまで緊張しなくても大丈夫よ。ジュエリーに合うパーティーのデザインとか企画を考えてみてね」
彼女は軽やかに言ってあなたの肩を優しくぽんと叩き、また仕事に戻っていった。
三年目にして、仕事のペースが順調に分かり、楽しさに満たされているとき。
こんな重要な役目を任されるとは。
サポートをしてくれる女性スタッフと密に話し合いながら、あなたはイベントを成功させようと心に誓ったのだった。