第26章 生活編
ヴィクトルにとってあなたは、まったく単純な存在ではない。
彼を翻弄するかのように、いつも様々な表情を見せてくれることが、大きな喜びであり、驚きでもあるのだ。
家に着いて協力しながら購入品をしまい、お菓子とお茶タイムの準備をしていたときだ。
時々あなたの顔つきが考え込んだように曇り、彼は気になった。
すると彼女のほうから、キッチンで話しかけてきた。
「ヴィクトル⋯⋯あの。ちょっと話が⋯⋯またいい?」
「いいよ。いつでも言って」
気にしてはいても、何を考えているかまでは気づきにくい自分に、こうして伝えてくれることを彼は感謝していた。
きっと真剣に考えた末のことだと想像できるからだ。
「いつもヴィクトルが支払いのとき出してくれて、すごくありがたいし嬉しいんだけど、私もなにか二人の生活の助けになりたいなって。だから、食費を担当するのはどうかな?」
おずおずと上目遣いで見つめられ、ヴィクトルは一瞬驚いて動きを止める。
だが、彼も落ち着いてゆっくりと考えた。
「ありがとう、そんなふうに言ってくれて。でもね、十分名無しちゃんは助けてくれてるよ。だから大丈夫だよ、生活費は俺が担当するからね」
にこりと告げたのだが、あなたの顔色は晴れることはなく、「うん⋯」と答えながらも悩んだ様子だった。
――言い方を間違えたかもしれない。
いや、そもそも俺は正しくないことを言っているのかも。
頭の中をヴィクトルはフル回転させたが、このことは彼にとっても難題だった。
一方あなたは、意を決した様子で顔を上向かせる。
「ヴィクトル、ありがとう。私本当にその気持ち、嬉しいんだ。嫌とかじゃ全然なくて⋯⋯でもね、こんなこと、聞きたくないかもしれないんだけど⋯⋯」
そう揺れる瞳で話を続ける姿から、ヴィクトルは目をそらせなかった。
「前に暮らしていたとき、相手は大学生だから食費を担当してくれて、私は働いてるから家賃とかその他を出してたんだ。家事とかも私がやっててね。それは好きでやってたから問題ないんだけど、⋯⋯相手がやって当たり前みたいな態度になってきて、段々なんで私が全部やるのみたいな、嫌な気持ちになっちゃって⋯⋯」
彼女は恥ずかしそうに明かし、どこか申し訳なさそうに口をつぐむ。
ヴィクトルの心は揺さぶられ、とっさに手を伸ばそうとしたが、真っ直ぐな瞳が彼を捉えた。
