第26章 生活編
「そうだ、でもさ。仕事帰りに、君は買い物に行ってくれてるだろう? それ大変だと思うんだ。だから休日に一緒に行かない? スーパーに週一で買い出しとか」
そう提案すると、あなたは一瞬目を丸くした。
「えっ……でもヴィクトル、休日は休みたくない? 買い物なら、私がちょこちょこ出来るよ」
「ありがとう名無しちゃん。でも休めるし大丈夫だよ。何か足りなかったらその都度どっちかが買ってもいいし」
「……本当? いいの?」
「もちろんだよ。二人の食べ物なんだから」
そう穏やかに伝えると、あなたの瞳が次第に明るくなっていった。
「嬉しいな。二人で買い物。週一だったら、もっと大きなところにする?」
「そうしよう。重い物も買い溜めできるし、俺はすごく食べるからね」
「ははは」
楽しそうに笑う姿を見ると、彼はまた安心する。
相手を思うゆえに、約束をするのに慎重な気持ちが、相手を思いやることでまた乗り越えられていく。
二人の生活というのは、そうやって作っていくのかもしれないと感じた。
食後しばらくして、ヴィクトルは自分の書斎室にいた。
パソコンで仕事の確認をしたあと、引き出しから一通の封筒を取り出す。
封を開けた手紙には、黒く光るカードが一枚入っていた。
契約している会社で共用に作ったもので、ローマ字であなたの名前が記されている。
彼はそれを見つめるのが初めてではなかったが、今日も渡せないだろうと考えた。
「はあ。こんなものを見せたら、また重荷になるかもしれないよな……」
この間の物件でのことを、ヴィクトルは反省していた。
両親の許しをもらい、もう彼の頭の中は、あなたとの生活のことでいっぱいになっていたのだ。
今は冷静になろうと努めているが、手の中のものを見るたびに彼は悩んだ。
これは単なる消費のためではない。
ずっとそばにいると決めたあなただから、一緒に持っていてほしいと願うものであった。
彼はひとまず、またそれを引き出しの中にしまい、立ち上がった。
いつか渡せるときがくると信じて。