第26章 生活編
「ヴィクトル、一人のときはビール飲むの?」
「そうだね、暑い時は飲みたくなって。君も飲む?」
「一口だけ」
お願いすると彼はくすりと笑いながら、グラスに注いでくれた。
「はあ、美味しいなぁ。起き抜けのビールは」
「ははは。じゃあご飯もどうぞお嬢さん」
「奥さんだよ」
「えっ? はいじゃあ奥さん」
起き抜けの勢いで言うと彼を赤くさせてしまった。
それを見てあなたも恥ずかしくなってくる。
ごまかすように彼の手料理らしきパスタ炒めを食べた。ハムと卵、玉ねぎ、パセリが入ったスパイシーなやつだ。
「わあ〜初めて食べた。これ最高だよヴィクトル」
「本当? ものすごい簡単なやつだよ。何もないときに作るんだ」
「天才、おいしい! もっと食べたい!」
「まだたくさんあるよ。まって持ってきてあげる」
彼のを取ってしまったあなたに笑みながら、ヴィクトルはほんの短い間遠くに行って、またすぐに戻ってきた。
まるで自由な振る舞いをしているあなたを、彼は嬉しそうに、愛おしそうにしか見つめていない。
今自分が甘えてることを、彼は気づいているだろうか?
気づいていればいいなと思う。
なぜならば、それが本当の自分だからだ。
「ああ、気持ちいいな⋯⋯」
思う存分お腹を満たしたあなたは、まだ晩酌している彼の腕に巻きつき、寄りかかっている。
快適な部屋で、テレビがついていて、暖かな照明と、隣にいる彼の存在。
夜も遅くなってきた頃の、ほんのひととき。
「⋯⋯また寝るかもしれない⋯⋯寝たらよろしく、ヴィクトル」
「はいはい。奥さん。ベッドに持っていってあげるよ」
早くも慣れたように見せている彼に、あなたは可愛らしく笑った。
勇気を出した彼の照れた背中に、またその温もりを求めて、あなたは体を預けていた。