第26章 生活編
「ねえ名無しちゃん、キッチンも素敵じゃない?」
「ほんとだよ、エレガントな石造りだね~ワインセラーもおっきい!」
「こういうの欲しいよね。オーブンも立派だなぁ。俺こんな本格的なやつでグリル料理やりたいよ」
「私も! 大きな煮込みも出来そうだよね」
二人で盛り上がるのだが、今日はあなた以上にヴィクトルが感情豊かに目を輝かせている。
もしかして新しい住居が気に入っているのだろうか。
けれどそれは単に家が欲しいというよりも、あなたとの新生活を二人で作り上げていくことを、彼も嬉しく思っているようだ。
そう感じると勝手に顔が緩んでくる。
「こちらにあるものは大変使い勝手がよろしいかと思います。お二人の動線にもぴったりですし、奥様のご希望に合わせて、内装のカスタマイズも可能ですよ」
マルコの言葉に、あなたは目を丸くして止まる。すぐに彼は気づき、「失礼しました、ご婚約者様の――」と言い直すが、あなたはもう夢見心地である。
――奥様。今そう言われた。
ふふっ。私、ヴィクトルの奥様になるんだなぁ。
心の中で感動していると、ヴィクトルも照れたような面持ちで、あなたの肩をそっと抱いている。
ちょうど部屋で二人きりになったとき、彼と向き合ってお喋りをした。
「ふぅー、すごかったねぇ。もう別世界だよ。⋯あっ、ヴィクトルの家と同じぐらい凄いとこだけど。あっちはやっと最近慣れてきたとこだからなぁ」
「そうかい? ここに住んでも、結構すぐ慣れるんじゃないかな?」
思わせぶりな目線で微笑まれるが、本気にしてしまうあなたは「ないない!」と焦るばかりだった。
最初は緊張していたけれど、こうして初めての内見が終了した。
だが考えてみると、ここまで価格の話が出ていない。
あなたにも質問の機会はあったが、当たり障りなく話しただけで終わった。
だがヴィクトルは最初から知っていたように、エージェントとの終盤の会話でさらっとこう話す。
「では賃貸だと月3万ユーロほどか。購入すると600万前後になるんだね。意外とリーズナブルだな」
「ええ、そうなんですよ。でも私どもの見立てでは、今後も上がっていく可能性が高いと考えています。立地も申し分なく、建物としても資産価値が落ちにくい条件が揃ってますので」
平常心を保とうとしながらも、会話を聞いて卒倒しそうになる。
