第23章 来客
でももちろん二人は本気で喧嘩してるわけでなく、軽口の範囲である。
でもそんなことを知らないあなたは急いでキノコをフォークに刺し口に入れた。
「ま、まあまあ。もうなくなっちゃったよ。別に責めてないから私。びっくりしちゃっただけで。はいやめましょうね~二人とも」
そう言ってもぐもぐしていると、突然目の前の男三人は大きな声で笑いだした。その波のような声量にびくっとする。
「名無しちゃん、食べてくれたの? ごめんありがとう。いや本気で言い争ったわけじゃないからね、怖かった? ごめんね。……お前のせいだぞフロリアン!」
「なんだとっ? お前が好き嫌いあるのが悪いんだろ! 名無しさんが優しい女性でよかったな、食い物の好き嫌いはな、結婚生活において地味に蓄積していくんだよ! 俺の有益なアドバイスだぞ、よく聞いとけ!」
「だから普通のキノコは食べれるって言ってんだろ! お前は昔から好き嫌いにうるさすぎるんだよッ」
二人が生き生きとまた言い合いをしている。
そんな姿を前に、あなたはクリスをちらっと見た。彼は呆れ半分な顔で肩をすくめたが、あなたに申し訳なさそうに笑った。
「どうですか名無しさん。幻滅したのでは? これが25年来の男の親友同士の本当の姿です」
「あはは……いえいえ、幻滅なんてしませんよ。すごく面白いです。ヴィクトルのこんな姿初めて見ましたけど」
眺めていると、くすりと笑ってしまいながらも、どこか嬉しい気持ちになってくる。
どんな場面でも新しい彼の姿を見られることは、あなたにとって喜びに違いないのだ。
「でもあれですね。なんだかフロリアンさんって、やっぱりお父さんみたいだなぁ」
何気なく微笑みもらした言葉に、一瞬リビングがぴたったと止まり、静まり返った。