第23章 来客
「すみません、ちょこっとだけいいですか?」
「どうぞどうぞ、お好きに」
クリスにソファに座ってもらい、あなたは真剣な瞳で彼の髪型をセットすることにした。
ヴィクトルに男物のワックスまで頼み、ファッションよりも気を使って整える。
そんな姿を、じっと遠くから見ている男がいた。
「ううん、なんというか……そのぐらいなら俺がやろうか? なあクリス」
「あっ大丈夫。もう終わるから」
没頭するあなたにそうあしらわれる珍しいヴィクトルに、クリスも笑いをこらえ、正面を向いていた。
それから数分して、本当の意味で彼は生まれ変わる。
全身鏡の前に立ったクリスは、完全にあか抜けた自分を見て茫然としていた。
きっちりと分けられていた七三のブロンドが、前髪を軽く上げて自然に流れるスタイルへと変わり、色気を帯びた爽やかな印象に仕上がっている。
「いやあの、髪型ってほんとに大事ですね。僕、良い男過ぎません? ……名無しさん、あなたにお願いして本当によかったです。美容師の資格も持ってるんですか?」
「いえまったくです! 学生時代に演劇部で服以外にもメイクを担当してたんですけど、ほんとにただの素人の趣味なので」
大人の男性の髪を整えるのは、さすがに緊張した。
それでも、ここまで気に入ってもらえたことに、手応えと嬉しさがじんわりと広がる。
「どうですかヴィクトル。もうあなたの横にいても見劣りしませんね。これからは野暮な坊ちゃん風後輩ではなく、厳しめ幹部と肩を並べる若手イケメンビジネスマンですよ!」
「……もう少し格のある表現ないのか? それに俺は別に厳しくないだろう、優しい上司だぞ」
上司の不満げな言葉も耳に入らないほど、クリスの表情は明るく上気していた。その顔には、満足と達成感がはっきりと表れていたのだった。
皆で和気あいあいと彼を祝っていると、マンションのインターホンが突然鳴り響く。
「あっ、来たみたいですね!」
そのままの勢いで飛び出していったのはクリスだ。
あなたもヴィクトルと顔を見合わせ、ちょっぴり緊張してくる。
実は今日はもう一人、訪問客がいるためだった。