第22章 出張編
「もうこんな時間だね。朝早いんだよね」
『……名無しちゃん、またその台詞で締めくくろうとするの。いやだよ、俺は……』
「でも寝ないとだめでしょう。朝何時に起きるの?」
『6時。出来る限りジムに行ってるんだ。君に喜んでもらいたくて。まだいい体だから安心してね』
「もうっ、何言ってるのっ」
『あれ、何を想像したのかな?』
頬を染めたあなたを見て、ヴィクトルはからかうように笑う。
これだけ冗談が言えるなら大丈夫だとあなたは思った。
でもやはり、時間が近づいてくると心細くなってくる。
「おやすみヴィクトル……」
『うん……待って、一緒に寝る?』
「無理だよそんなのっ」
『やっぱそうか』
中々切りたがらないお互いに困っていると、あなたはもう一つ彼に言い出したかったことを思い出した。
今がチャンスだと感じたのだ。
「あの、ヴィクトル。もしよかったら、帰り、迎えに行ってもいい?」
『えっ! 空港に?』
彼が驚いて聞き返すと、あなたはドキドキして頷いた。
彼の瞳にみるみる生気が宿り始める。
『でも大変じゃない? 着くのは夜だし、遅れるかもしれない。次の日は君も仕事だし――』
「ダメ?」
『いや来てほしい。すぐに会いたい。君に』
そんなふうにまっすぐ、飾り気もなく欲求を伝えられたのは初めてだった。
とんでもなく嬉しい気持ちが心に広がっていく。
「よかったぁ。じゃあ行くね。嬉しいなぁ。すぐに顔が見れるんだ、ふふっ。――あ、クリスさんのことももし良かったら送っていくからね」
『ありがとう。でもどうだろうね、たぶん気を使って別れると思うよ』
彼は思わせぶりなウインクをしてきて、早くも二人の世界に浸っている様子だ。
そうと決まれば、あなたもヴィクトルも残りの日数を乗り切れる気がしてくる。
二人の愛情も絆も、何があろうとけっして解かれることはないと、もうすでに分かっていたからである。