第22章 出張編
「てことはホテルが拠点よね。うちら会社員じゃないからよくわかんないけど、相手方との接待とかはあるだろうね。劇団でもめっちゃあるもん」
「接待か……。確かに。女性が同席するのもよくありそうだよね…」
それは仕方ないとしても、あなたはうっすら思い出してしまった。
ヴィクトルが以前クリスと女性のいるラウンジに、会社帰りによく行っていたらしいことを。
前に親友にもそれを伝えたことがある。その時もセリアはあなたと同様、「ありえることだ」と受け止めていたが。
「要はさ、今って行動が分からないもんね。出張中にやる奴多いし。……あっ、青ざめないで名無し」
「うん……」
「まだ続きがあんのよ。私が言いたいのはね、ヴィクトルさんはそういうんじゃない気がするってことなの」
あなたは希望の光を浴びたかのように、彼女を見上げる。
「そう思う?」
「思うね。最初に名無しの家で会ったときも、この前の忘年会のときも。……名無しを見る目がね、もうほかの人を見るときとぜんっぜん!違うのよ。やさしーい、なんていうか愛しき者を慈しみ崇拝するような眼差しで――」
「そこまで言われるとちょっと現実との剥離がさ……」
「いいから自信もって、真実だから! とにかくね。あの人は只者じゃないと思う。クラブに行く話出たときも、ちょっと本気でジェラシーの瞳だったよ。隠してたけどね。名無しは酔っぱらってて気づいてないだろうけど、私は芝居見抜けるから。ごまかせないよ」
自分だって酔ってただろうという突っ込みは置いといて、彼女の言葉にはかなり癒しの作用があった。
そうなのだ。ヴィクトルは、いつでもあなたのことを一番に愛し、包み込んでくれる人だ。
あなたに寄り添うことを労力だとも思わず、どんな時でも誠実に向き合ってくれた。
そんな人を疑うこと自体が、必要のないことだとも思える。
ただ自分の過去や、今の非日常的な状況が、ちょっとした不安を膨らましてるだけなのだと――。