第22章 出張編
海外出張初日。数時間のフライトを経て東欧入りしたヴィクトルは、市内の高級ホテルへチェックインした。
一か国目となる地には現地支社があり、昼からミーティングの予定だ。
彼の目的は国際事業部の統括として、新規契約の承認をすること。ほかにも既存クライアントとの面談がある。
本社から同行したプロジェクトリーダーのクリスは、明日大事な大口契約が控えていたが、いつも通り落ち着いて笑顔を浮かべていた。
「ああ、あなたと一緒だとビジネス乗れて得した気分ですよ。たった数時間なのに幹部って贅沢ですよねえ」
「俺たちは体がでかくてエコノミーがつらいんだよ。若いころは平気だったけどな、慣れたらもう無理なのさ」
上質なコートをまとった彼が部屋へ向かう途中、肩をすくめると、一回り若いクリスはけたけたと笑った。
「そういえば、そろそろ聞いてもいいですか? その指輪。アクセサリーつけてるとこなんて見たことないんですが」
「ああこれか? よくぞ聞いてくれたね。もっと早く聞けよ。これは名無しちゃんが数日前に婚約の証として渡してくれた唯一無二の品で――」
「やっぱそうでしたか、恰好いいなぁ。なんだかちょっと色気ありますよね。裏社会っぽさが滲んでません?」
「はっはっは! 前に彼女にも言われたことあるな。俺はそんなに悪そうな雰囲気出てるかい?」
「黒髪で彫りの深いラテン系に見えるからじゃないですか? ていうか今日テンション高いですよねヴィクトル。もっと沈んでるかと思ったのに、愛の力はすごいなぁ。……あっ、ここあなたの部屋ですか。ええっ、豪華すぎますよ! 僕のと絶対違いますよね、こんないい部屋泊ってるのずるい!」
昔馴染みとはいえ上司といるのに、どちらがテンションが高いのだろう。
彼は目の前でわめくクリスの肩をやんわりどかし、部屋へ荷物を入れて眺めを見渡した。