第21章 お返し
家庭料理を洗練された味と盛り付けで彩った品々に魅了され、グラスを傾けて乾杯もする。
あなたはクールな濃いジャケット姿のヴィクトルに見とれていた。
彼はいつどんな時でも素敵だ。本当にこの人と、自分は将来を共に過ごせるんだな。
そう考えるだけでいまだに夢心地になってしまうが、指に光る指輪に視線を落とすと、おのずと勇気がわいてくる。
「美味しかったね。やっぱりここの餃子は最高だな。あの辛いスープも」
「ほんとほんと。満足したら熱くなってきちゃった。ちょっと外出ようか」
あなたはなるべく自然に彼を外のテラスに誘い出した。
コートを羽織り、少し丘になっているこの場所から遠くの街の夜景を見やる。
レストランの提灯のような照明が二人をキラキラと照らしていた。
あなたの口数が少なくなるとヴィクトルがふと笑いかける。
「思い出すな、ここで君に初めて交際を申し込んだこと。覚えてる?」
「もちろん! 絶対忘れないよ。嬉しかった……でもあの時、ちゃんと返事できなかったね。申し訳なかったな」
「いやいや、俺が焦っちゃったからね。どうしても君の手を、自分の手に繋いでおきたくてさ」
彼がせつなげな眼差しで瞳を細め、あなたの頬に指先をそっと触れさせる。
自然に顔が近づき、目を閉じて彼のキスを受け入れた。
再び視界が開けたときには、彼の照れた顔が優しく見下ろしてくれていた。
心が鼓動を鳴らす。
心はいつも彼を求めている。
自分もヴィクトルの手を一生離したくないと、この胸に願った。
「ヴィクトル、あのね、渡したいものがあるんだ」
あなたが思いきって切り出すと、彼は一瞬目を丸くした。
その隙にコートのポケットから少し大きめの四角い群青色の箱を取り出す。
「これは私からの婚約の証だよ。ヴィクトルに素敵な指輪をいただいたから、お返しなんだけど、受け取ってもらえると嬉しいな。……えっと、あの、結婚してからもずっとずっと一緒にいてください!」
声を大きめにして頭をぺこりと下げた。両手で差し出した箱が、しばらく宙に浮いていてあなたは恐る恐る顔を上げる。
すると信じられない光景が待っていた。
立ち尽くすヴィクトルの瞳から、一粒の涙が頬を伝ったのだ。