第19章 忘年会編
あなたは珈琲を運ぶ彼らを見送り、アンドレイのもとに向かった。
彼の手元を見て、あっと驚いたのだ。
「わあ、それもしかして抹茶ですか? いい香り〜。アンドレイさん、抹茶淹れられるんですか」
「そうだ。アジアの茶全般を好んでいるが、最近は抹茶にはまっている」
やや抑揚のない台詞だったが、あなたは隣で彼を見上げてはしゃいだ。
「私も抹茶好きです、セリアちゃんも! 美味しいですよね〜苦みとコクが同時に合って。でも高価で中々手が届かないんですよね」
「⋯⋯会社の近くに入手しやすく質の良い店がある。2ブロック先だ」
「本当ですか? ありがとうございます! 後で調べてみようっと」
思わぬ情報を得てあなたは浮かれていた。
一度プレゼント交換をしたからだろうか、アンドレイの迫力に気圧されることもなく、なぜか話しやすかった。
そしてリビングではもう皆ケーキを食べていた。好む者がいれば、抹茶もきっと食後に合うだろう。
2人でカウンターから運んでいると、後ろから気配がした。背の高い黒髪の男が、ゆっくりと背中を掻きながら歩いてくる。
珍しく目つきが悪く、まだ寝ぼけた様子だ。
「⋯⋯今何時だ?」
低くかすれた声で問うが、先に気づいたのはあなただった。
声が一瞬止まってしまうほど、今この瞬間にヴィクトルに会えたことに感動していた。
「⋯⋯んっ?」
そして彼もこちらを振り返って、一瞬で覚醒したようだ。
あなたの隣で仲よく茶碗を持った巨体のアンドレイを交互に見やる。
「え。名無しちゃん? これ夢か」
「ううん! 夢じゃないよ、おはようヴィクトル〜!」
あなたは喜びにあふれた笑みで話し、急いでテーブルに飲み物を置いて戻ってきた。
「来たの!?」
「そうだよ。お邪魔しまーす。びっくりした? セリアちゃんとエリックさんもいるよ。クリスさんとマックスさんにお誘いされてね――」
嬉しくてたまらないあなたは、彼の前で身振り手振りで説明した。
ヴィクトルはまだ夢でも見てるかのように呆然としていたが、突然あなたのことを抱きしめる。
ふわっと彼の香りに包まれ、鼓動が飛び跳ねた。
「ちょっ、どうしたの!」
「ああ⋯⋯信じられない。さっき君が夢に出てきてね。目覚めて寂しくなったんだが、まさか現実の君がここにも⋯⋯」
まだ夢心地な彼の耳越しに、緩やかな黒髪の寝癖を見て微笑む。
