第17章 実家編
「⋯⋯名無しちゃん? ごめんね、俺が何でも話してっていったこと。もし嫌なのに、無理に話さなきゃなんて考えてたら、それは違うし言わなくていいんだよ」
「ううん、そうじゃないの。雰囲気を壊したくないだけなんだ。私はヴィクトルにそう言ってもらえて、本当にほっとして嬉しかったよ」
そう本心を伝えて、あなたは払拭するように覚悟を決めて口にした。
「実はね、実家に帰ったとき、精肉店でマティアスに偶然会ったんだ。それで話しかけられてさ」
「え?」
彼の表情を見上げると、本当に予想外のことだったらしく一瞬でシリアスな顔つきになり、眉間に皺が寄った。
「それで、何か言われたのかい? 何があったの?」
「うん⋯⋯私に謝ってきて、友達に戻れるんじゃないかって言ってきた」
そう話すと、ヴィクトルは怒りと不愉快さを露わにした。言葉を押し殺し、彼がまとったピリピリした空気にあなたもやや圧倒される。
「馬鹿なんだな、そいつは⋯⋯」
「うん。バカなんだ。あんまり人の気持ちが分からないんだ、彼は」
瞳を沈ませたあなたは、ヴィクトルの手をぎゅっと握って、こうも伝えた。
「でもね、私言い返したよ。もうあんたのことなんか考えてないし、話しかけないでって。すごいでしょう? だから大丈夫だよ、ヴィクトル。心配いらないからね」
彼に笑みを向けたが、無理して作ったのではない。心からの宣言と清らかな達成感も入っていた。
そしてそれがヴィクトルにはまっすぐに伝わる。あなたの気持ちはいつも彼にだけは何の曇りもなく、胸の中に伝わっていくのだ。
ヴィクトルは呼吸をするのを一瞬忘れたかのように、驚き瞳を揺らしたが、すぐにあなたのことを力強く抱き寄せた。
内容はもちろんだが、あなたがそうしてふっきれた顔で喜びとともに伝えてきたことが、彼の心を大きく震わせたのだった。