第17章 実家編
「あのさ⋯⋯私変わったんだよ。もう前の私じゃないんだ。あんたのことなんか思い出すこともない。気軽に話しかけないで。じゃあね」
目を睨みつけて言い放ち、彼に背を向ける。そしてばったり出くわしたのが、話を聞いていたのかいないのか分からない母だった。
母は気が張っている状態のあなたと、茫然自失のマティアスに対して目を見開いていたが、すぐに状況を察知し、明るく彼に会釈をした。
「あっ、どうも〜。お父さんも。良いお年を! ほら名無しちゃん、もう行こう。お肉受け取ったから」
あなたの手を握り、にこやかに店を出ていった母についていき、二人で車に乗り込んだ。
あなたは口をぎゅっと結んでいたが、ハンドルにまだ手をかける気になれず、黙っていた。
母が静かに待っていてくれる間、あなたはこらえきれずに涙をぼろぼろと流す。
母の前だからか、感情があふれだして子どものように泣きじゃくってしまった。
「あっ、ああ〜大丈夫、大丈夫。泣かないで、名無し。平気よ、もうね。ほらお家帰るからね」
「ごめん⋯⋯っ、恥ずかしい⋯⋯っ」
「何が恥ずかしいの、何にもないから大丈夫」
「⋯⋯うっ⋯⋯くっ⋯⋯⋯⋯ヴィクトルが、助けてくれたんだっ⋯⋯⋯⋯一緒にいてくれたんだ⋯⋯!」
あなたはそれだけを伝えた。
意味が不明瞭だっただろうが、母は眉をさげて瞳をじっとあなたに向け、すぐに背中をさすった。
「そうだったんだね、よかった。よかったよ名無し。ほらおいで」
母はあなたのことを助手席から腕を伸ばしてハグする。懐かしい温もりに抱きついて、あなたはしばらくその場で気持ちを落ち着かせようと努めていた。