第16章 真相編
――自分には何でも話してほしい。
それはヴィクトルにとって、これまでより踏み込んだ発言だった。
あなたのプレッシャーになってしまわないか。行動を強制し、思いを押しつけてしまってないか。
悩みながらも、言わざるを得なかった。それだけ今回の出来事は、責任感の強いヴィクトルの根幹を揺るがす問題だったのだ。
「ヴィクトル。年が明けて、来月末の欧州出張なんですが。各国の企業との会合スケジュールの都合がつきました。やっぱり2週間ほどの予定を組むことになりそうです」
「ああ。そうか⋯⋯」
オフィスに報告に来た小綺麗なスーツの金髪の青年、クリスは上司の顔色をちらりと伺った。
いつもと変わらず仕事では妥協しない冷静沈着なビジネスマンではあるが、浮かない顔をしている。
「どうしたんです? まさか⋯⋯あなたともあろう仕事人間が、彼女に会えなくて寂しい⋯なんてこと言いませんよね? 若い部下の前で」
「言わないよ」
ヴィクトルは呆れ気味にぼやき、渡された書類を隅々まで確認する。
いつもなら「君は詮索好きな暇人だねえ」とか余裕ぶった笑みを見せる彼だが、それがない。
そんな姿を見て色々察したクリスは、早々に退散することにした。
一言だけ付け加えて。
「あ、そうだ。ヴィクトル。年末の忘年会のことは忘れないでくださいよ。あなたの家でやるんですからね」
「え? またか? 毎年うちじゃないか⋯⋯たまには君の家でやれよ」
「僕はおまけで参加させてもらってるんですよ。それに皆さんの豪邸に比べたら恥ずかしくて恥ずかしくて」
ヴィクトルは思ってもないことを、とじろっとした瞳を向けたが、社長の弟クリスは茶目っ気を見せて笑い部屋を後にした。
「忘年会か⋯⋯。そんなことより、出張がやっぱり長引いたな。⋯⋯ああ、くそ⋯⋯」
どさりと椅子の背もたれに体を預け、彼はため息を吐く。
仕事に私情は持ち込まない。彼の信念だったはずが、ここ最近は色んなことが起こり心が落ち着かなかった。
ヴィクトルはひとまず頭を切り替えて、今は仕事納めに集中し、じきに来るクリスマスにあなたと会うことを思い描いた。